停車したバスの中に立っている。
外は暗く、通りに面した色んなお店の灯りがぼんやりと目に映る。
入り口近くの手摺りに掴まって立っていると、開いたままのドアから妻が乗り込んで来る。
近くのジュエリーショップであなたに良い物を二つ見付けた。
どちらも素敵で選び切れなかったので二つとも買ってしまった、
そう言って小箱を二つ、僕の胸ポケットに入れた。
箱を開けてみると、硝子と銀を巧みに使った指輪と、
もう一つはペンダントヘッドだろうか。
後で明るい場所でゆっくり見よう、そう思ってすぐに箱に戻す。
礼を述べて話をしていると、そのアクセサリーを買った店の主人が妻の後を追って来た。
僕とも旧知の仲であるらしい。
あの店を畳む事になったので、もし良かったら店舗を貸したい、という申し出だった。
ありがたい申し出だが借りるお金がないし…と返事を言い淀んでいると、
暫くは無償でも構わない、空き店舗にせず使ってもらえる方がありがたいのだから、
と言うので、降って湧いた様な話に戸惑いながらも、また礼を述べ、
これからどうしようかとぼんやり考え始める。
外の暗さはどんどん深くなり、バスは一向に動き出す気配がない。


夢は繋がっているようだが、時間帯と場所が変わる。
繋がっている、と感じるのは、バスの停車していた時に見た景色を、違う立ち位置から見たからだ。
薄暗くなり始めていたから、夕暮れ時だったように思う。


先程のバス停から少し離れた場所にある店の前を通り過ぎ、
どんどんと裏通りへ向かって歩いて行く。
何処とも言い難い雰囲気だった。
ニューヨークのチャイナタウンとか、異国の中にある小さな異国、とでも言うのか、
チベット風の小さな中庭のような処に辿り着く。
今は海外で暮らしている友人が、ベンチに腰掛けて煙草を燻らせている。
近くへ行くと友人がとても驚いた顔をしたので愉快になって、
煙草を一本吸ったら帰るから、僕にも煙草をくれないか、と言った。
僕も自分の煙草を持っていたが、友人と出会う前に人にあげてしまい、もう残っていなかった。
幾人かのチベットの坊さんだか乞食だかよく判らない風体の人と地面にしゃがみ込んで、
ねだられるままに煙草を分け与えて一緒に吸った。
驚くほど博識かつ聡明で、貧しい暮らしはとても相応しいものと思えないのに、
皆それが天命であるかの様に堂々とし、何の不足も疑問も抱いていない。
暖かそうではあるが襤褸布の様になった薄汚いコートと耳当て付きの帽子を身に纏い、
兎の毛の付いた柔らかそうなブーツを穿いて、地面に座り込んで
「煙草をおくれ。吸う間傍に座って話をしよう」僕にそう言った。
一本吸い終わると彼等の話がもっと聴きたくなって、どんどんと煙草を渡した。
旨そうに煙を吐き出しながら、彼等の口からはこれまで誰からも聴いた事のない様な眩しい言葉が溢れ落ちる。
平伏したい様な気持ちになったが、努めて親しく、対等に振る舞った。
彼等がそう望んでいると感じたので。




起きてすぐ居間に行き、妻に夢の話をした。
それから友人にメールの返信をした。(先程の夢に現れた友人とは別な友人)
この日の朝、その友人の夢を見、夜になってその友人からメールを貰ったのだった。
友人は今は病院で療養中で、その事を気に掛けていたから夢に見たのかも知れないけれど、時々こんな事がある。