旅先の宿らしき部屋。
妻と、友人らしき人たちと四人で居る。
妻はまだ眠いのか、それとも転た寝をしているのか、一言も話さない。
友人たちのベッドの上を、チィさんが我が物顔でのしのしと歩いて来る。
さっとつかまえて抱きかかえ、よくそうしたように
ひっくり返してお腹を撫で回してやろうとしたら、
抱いた途端に耳許で「ヘックシ!」と、高い声で人間みたいな嚔をした。
驚いて顔を覗き込んだら、チィさんもちょっと吃驚したような顔をしていて、
それがどうにも可笑しくて笑い出した。


抱きかかえた時に(やめろよー)と少し身をよじる様子や、
あたたかくてやわらかな感触が懐かしくて、嬉しくなった。


一緒に部屋に居た見知らぬ友人たちは、
一人はチィさんが歩いていたベッドに横たわった女性で、
もう一人はその脇にあるソファーにゆったりと身を沈めて、
何か散財のプランを持ち掛け、すぐにベッドの女性に窘められて、
もじもじとばつが悪そうに剥がれかけた爪のマニキュアを擦っていた。
彼はよく日焼けをした金髪碧眼の異国の人らしき風貌で、
洗いざらしの白いシャツに色落ちしたデニムを穿いている。
そして爪には白いマニキュアを施していた。
女性の方は、ソバージュの柔らかそうな長い髪が動く度にふわふわと揺れる。
柔らかな物言いだけれど、連れの男性の浪費癖を窘めるやり方が巧くて、舌を巻いた。


ベッドの横には大きな硝子窓があり、高い山々を見下ろす美しい景色が拡がっており、
朝靄の中を雲がとても早いスピードでどんどん流れていって、
チィさんを抱いたまま、暫くその景色に目を奪われていた。




二年近く経って、漸くチィさんが(普通に)夢に現れるようになった気がする。
これまでは夢に現れても別れを想わせるような展開の寂しい夢が多くて、
穏やかな気持ちで目覚めることは少なかったけれど、
今朝は目が覚める前から嬉しくて、久し振りに夢の中の細かなことがはっきりと思い出せた。