チィ

こんな夢を見た

ひなびた観光地らしき場所。 ずっと昔、暫くの間この辺りで暮らしていた記憶がある。 これから駅を目指し、電車に揺られて、今は遠く離れた我が家へ帰らねばならない。 辺りはすっかり暗く、脚は疲れ切っている。 大きな神社の境内へと続く急な坂道へ向かう…

慣れ

今週のお題「ちょっとコワい話」 久し振りに覗いたら、Blogのお題、というのが目に入って、それが「ちょっとコワい話」というので、暑気払いになるかどうか判らないけれど珍しく乗っかってみることにする。 まだ猫一匹と人一人で暮らしていた頃、ちょっとし…

初めての子は予定日よりも遅れることが多いと聞いていた。 前兆も全くなく、もっと歩いたりした方がいいのかも知れないと、 出産予定日だった二日にも散歩に出掛けた。 少し腰が重い気がするというので夕方頃には引き上げて来たのだけれど、 食事の支度をし…

旅先の宿らしき部屋。 妻と、友人らしき人たちと四人で居る。 妻はまだ眠いのか、それとも転た寝をしているのか、一言も話さない。 友人たちのベッドの上を、チィさんが我が物顔でのしのしと歩いて来る。 さっとつかまえて抱きかかえ、よくそうしたように ひ…

陶芸作家の北村公正氏にお願いして造って頂いたチィさんが届いた。 氏の作品を初めて観たのはクリエイターズマーケットで、 細部まで観察して緻密に作り込まれた亀や蛙や魚などの小さな生き物を観て、 小手先の器用さだけではとても造れない生き生きとした造…

一年前と同じ、穏やかな陽気。 去年の今日はチィさんの骨壺を抱えたまま、近所の寿司屋で昼食を摂った。 真っ直ぐ家へ向かうのがどうにも寂しく、帰ってしまったら、 食事の支度などする気分にはとてもなれそうもなかった。 隣の椅子にチィさんの骨壺を置い…

一年前の三月二十二日は晴れ。 暖かな日差し。 穏やかな春の始まり。 チィさんの骨壺を抱いて、桜の木の下に立った。 明日で丁度一年になる。 チィさんのことを想わない日はない。 柔らかな背中を ざらざらした舌を 物憂げな目を 静かな佇まいを 心許なげな…

クリスマスに、妻が僕に内緒でチィさんの写真集を編集してプレゼントしてくれた。 photobackというウェブサービスを利用したらしいのだけど、 年が明けて、その写真集がphotoback「今月の一冊」に選ばれました、との連絡が届いた。 本を受け取った時も嬉しか…

イラストレーターのかなもけんさんが描いて下さった家族の肖像。 チィさんのお骨を抱いて戻った日、真ん中のチィさんの絵が届き、 とても嬉しくて、本当に嬉しくて、 それから長い間枕元に置いて、毎朝毎晩この絵を眺めていた。 壁に掛けてからも、ふとした…

旅の事で書き留めておきたい話が沢山あるのに、 どうも体調が優れず、日が経ってしまった。 空港からバスに乗る際、小銭がなくてまごまごしていたら、 苛立たしげに「もういいからさっさと乗れ」と言われた事。 バスの運転手は少々邪険な態度だったが、 「金…

喉が酷く痛むと思っていたら、熱が出た。 臥せっていると、チィさんの事をよく考える。 横に来て不機嫌そうな顔で退屈そうに寝そべったり、 咳をすると億劫そうに頭を上げて煩そうな顔をこちらへ向けたり、 何もない座布団の上に、その仕草の一つ一つを はっ…

チィさんが生き返る夢。 あまり喜ばしい夢とは言えなかった。 元気になって生き返るのではなく、 亡くなる直前の状態で戻って来たので 今度は別な手段で何とか繋ぎ止めようと必死に足掻いている。 しかし別な手段といっても縋れるものが他に見付けられるでも…

チィさんの夢を見た。 チィさんが外に出てしまって、それを必死に探し廻り、 追い縋る様な夢だった。 居なくなってしまってからもう随分時間が経ってしまったし、 もう二度と会えないかも知れない、と思い始めていた時に 障子に影が映った。 慌てて窓を開け…

チィさんの月命日。 もう一月経ったのかという思いと、 まだ一月しか経っていないのかという驚きとが混在している。 つい昨日の事の様に辛く、もう何年も会えないでいる様に永い。 チィさんの闘病中にサプリを送って下さった方がいて、 そのサプリはその方が…

チィさんが生き返る夢を見た。 と、言っても肝心のチィさんが出て来ない。 かなりの部分を忘れてしまって思い出すことが出来ないのだけど、 チィさんが戻って来ようとしている、 だけどあと少しのところで巧く行かなくて、 急いで何か適切な処置さえ施して貰…

時間が経てば経つほど辛くなるのは何故だろう。 小さな額に何度くらいキス出来たかな 千回か一万回か、きっともっとした気がするし、 それでもまだ少しも足りない。 そろそろ化けて出るくらいはしてくれてもいいのになあ。 羊毛でレリーフを作った。 近所の…

チィさんがお世話になった病院へ、御礼の御挨拶に行く。 入り口でお茶菓子を渡して頭を下げると、 まだ病院の奥にチィさんを預けているような、 不思議な気持ちになった。 帰りのバスを待ちながら、どうしても 最期にチィさんを迎えに行った時のことで頭がい…

もっとずっと以前から、まだチィさんが元気で、 家の中を駆け回って僕を追いかけっこに誘ったり 満ち足りた表情で日向ぼっこをしている時分から、 何度も繰り返し悪夢に見て魘されたり、 時々は自分でも滑稽になるくらい畏れていた事が、 いざ現実に起こって…

暖かなよく晴れた日の朝を選んで、逝った気がする。 妻が仕事休みで、一緒に見送ってやれる日。 個別葬の申し込み受付に間に合う時間。 診療時間の始まるほんの少し前。 全てが整い過ぎていた。 あの状態から十六日も頑張った猫は他にいない、と 獣医師が驚…

下血があったとのこと。 知覚過敏から痙攣発作が起こるようになった。 人の耳には届かない音域の、微かな音に反応して痙攣が起きる。 静かな呼びかけや足音で発作を誘発してしまうおそれはないとのこと。 意識レベルははっきりしていて、呼びかけに応じてち…

また一つ歳をとった。 自分の誕生日などさして気に留めたこともなかったが、 今年だけはいつもと違う。 年が越せるかどうかも解らない状態だったのが、 今日まで居てくれた。 それが何よりの贈り物なのだと思う。 毎日僅かでも顔が見られて、呼べばそれに応…

何日も酸素室の中で朦朧としているのを見ていると 本当にこれでよかったのだろうかと考える。 酸素室に入ってからもう随分になる。 よく晴れて暖かな日などは、すぐにも連れ帰って たとえほんの僅かでもいいから 最後に思い切り日差しを浴びさせてやりたいと…

もうあまり見えていないかも知れないと言われた目で チィさんは僕と妻の顔を交互に見る。 顔を近付けて名を呼べば、出なくなった声を出そうとして 喉から「ぐー、ぐー」と音を出して応える。 まだちゃんと意識がある。 もうがんばらなくてもいいんだよ、と思…

午後の面会時間に合わせて家を出、バス停へ向かう。 強い風に煽られて身体がゆらゆらと揺れる。 あまり酷く揺れるので、また目眩が始まったのだと思った。 チィさんの容態を確かめるまで倒れるわけにいかないと思い、 バス停の風除けに背中をぴたりとくっつ…

酸素室四日目。 薄く目を開けて前脚を伸ばした格好をしている。 昨日よりは呼吸が少し落ち着いて見える。 少しだけなら撫でてもよいと言われ、 硝子の扉を開けてもらう。 手を伸ばすと指先に少し顔を近付けて匂いを嗅ごうとした。 頬や鼻の上、横腹をそっと…

朝になると、病院へ電話してチィさんの様子を訊く。 午後の面会時間をひたすらに待つ。 入院二日目の面会。 初日の夜に比べると幾分落ち着いて見える。 息が苦しい為に箱座りしか出来なかったのが、 前脚を伸ばし、ちゃんと目を閉じて眠っていた。 呼吸が酷…

第四期に入り、腎性の貧血から来る呼吸不全で自発呼吸が困難になった。 もう治療の方法は残されておらず、唯々苦しみを和らげる為にのみ、 力を注ぐ。 昨日は息は荒いものの気持ち良さそうに日を浴びて目を細め、 触れればそれに喉を鳴らして応えてくれた。 …

見ていて不安になるくらい膨らんでいた腹部の張りが少し治まって、 痩せているのが酷く目立つ様になった。 長毛だから判りづらいが、撫でると背骨や腰骨がごつごつと掌に当たる。 お腹の張りが治まって少しは楽になるかと思いきや、 前よりも呼吸が荒くなっ…

チィさんのお腹の張りはいくらか改善されている。 呼吸は日によって荒く、頭が上下する。 機嫌は悪くない。よく喉を鳴らす。 一時よりも日に当たるようになった。 それが一つの目安になっている。 日に当たり、少しでも歩く日はこちらも気持ちが軽い。 暗い…

医者の見立てが信用出来ないという訳じゃないが、 矢張り気になるので再度受診。 腹部の膨らみが何なのか確認を取る。 触診で波動が感じられない事から、水分ではなくガスだろうとの事。 引き続き腸を刺激する薬を試す。 効き目の強い下剤等一切使用出来ない…