包丁を砥ぐ

実家に帰ると、包丁を研ぐ。
母は包丁が切れなくなると、
研がずにすぐ新しい包丁を買って来てしまうから、
家には何本も包丁がある。
呆れるほど沢山の包丁。
その殆どはいつも切れなくて、
刃はぼろぼろに欠けて鋸の様になってしまっている。
それを机の上に並べ、端からどんどん砥いで行く。
今回はそこに兄の家の包丁も加わり、
机の端から端までずらりと切れない包丁が並んだ。
砥いで砥いで砥いで、どんどん砥いで、只管砥いで、
全ての包丁の刃先が鈍い輝きを取り戻すと、
自分の中の何かが、ほんの少し片付いた気がした。
僕は自分で思っているよりも、包丁を研ぐのが好きなのかも知れない。


絶ち切るべきものは、研ぎ澄まされた切れ味の鋭い刃で一思いに。
刃先の傷んだ鋸の様な刃で、迷いながら切ろうとすれば、
痛みは何倍にも増すだろう。