小さな頃、塩漬けにしたばかりの
まだ産毛の生えた様な青梅を
盗み食いするのが好きだった。
夜な夜な漬物の壺からこっそり青梅を取り出しては、
カリカリコリコリと齧る。
まだちゃんと梅干になっていない青梅には独特の香りがあり、
舌の先にピリピリした刺激を残した。
殊に種の中身は香りが濃く、
噛むと舌が軽く痺れる様なのが癖になって、
盗み食いが一目で判ってしまうほど
毎晩沢山の青梅を食べた。


今思えば、それは梅に微量に含まれているという
シアン(青酸)の味だったのかも知れない。


まだ毒が抜け切っていないのだから止しなさいと叱られて、
梅の入った壺は手の届かない場所に仕舞い込まれてしまったけれど、
僕はあの舌先の痺れる様な感じがどうしても忘れられなかった。
日が経って、「もう食べても大丈夫だよ」と目の前に差し出された梅干には、
あの独特な香りや、ピリピリした刺激、硬い果肉の歯応えは無かった。


「もしかしたら、“毒”が美味しかったのかな。」そう思った。
「毒を持ったものは、毒が抜けてしまったら、
 きっともう美味しくなくなってしまうんだ。」


今でも毒を持ったものに心惹かれる。
強過ぎず、舌先が痺れる程度の軽い毒。
毒を持つ食べ物は美味しいものが多い。
毒を持つ生き物は美しい姿をしているものが多い。