履き心地

足にしっくりと馴染んで履き心地の良い、
綺麗な編み上げのブーツが欲しい。
長く何処までも歩いて行ける様な。


何か考えたい事がある時にも、
何も考えたくない時にも、
僕は只管歩く。
気が済むまで、
或いはもう一歩も踏み出せなくなるまで、
何処までも只管歩く。


歩くのは出来れば静かな通りがいい。
それでいて少しだけ賑やかな通りの側がいい。
出来ればあまり寂し過ぎない通りがいい。
通りの途中には独りで珈琲を飲める店があるといい。
それからそんな時にはきっと煙草が欲しくなるから、
店の隅には喫煙席があるといい。


足許にあるのは、柔らかくて
履き心地の良い靴であって欲しい。
靴擦れが痛むと悲しくなるから。
薄汚れた地味な靴じゃなく、少し明るい色の
軽やかな靴だといい。
きっと俯いて足許ばかり見てしまうから。


履き心地の良い編み上げのブーツが欲しい。
軽くて、柔らかで、何処までも歩いて行ける様な。