よく、夢の中に見知らぬ人々が現れる。


好みのタイプの女性が現れたりするような
理想化された現実味の無い相手ではなく、
また、仮想上の敵みたいなステレオタイプの悪役でもなく、
まだ出会ってはいないけれど
きっと何処かに居る、見知らぬ誰か、
といった感じの、ひどく現実味を帯びた人物像として。


昨日の夢に現れた女性もそんな風な人だった。


三十代後半。
少しカールした硬そうな黒髪は肩までの長さ。
痩せて、顔色は悪く、目の下には隈がある。
少し疲れた感じの、物静かな人。
僕は彼女と、薄暗い室内で一枚の絵を観ている。


最初に彼女がその絵を指し示した時、
その絵には人物は描かれていなかった。
薄暗い室内に、子供用の小さな椅子と
いくつかの家具が描かれている。


次に彼女がその絵を指すと、
小さな女の子がこちらを向いて椅子に腰掛けている。
少女の後ろの小さな窓からは弱い光が射し込んでおり、
その所為で逆光になって顔や表情は確認出来ない。


彼女が絵を指し示す度、絵の中の女の子は薄暗い部屋の中で歳をとり、
やがて現在の彼女の歳に近付いて行く。
ある時から、絵の中の、今はもう少女ではなくなった彼女は
とても具合が良くなさそうに見える。


絵を観ながら彼女は静かに話し始めた。
彼女は避け難いある事情から、余命幾許も無いという。
この暗い室内で、終わりの時が来るのを静かに待っているのかと思ったら、
彼女がとても気の毒になったが、僕にはどうする事も出来ない。
しかし彼女はそれを大袈裟に嘆いたり、僕に助けを求めている訳ではない。
只、誰かに話しておきたかったのだと言う。
この絵を見せて、自分が辿ってきた道程を誰かに知って欲しかった、と。


僕は掛ける言葉もなく彼女の話を聴いた。
只聴くだけしか出来ずに、黙って彼女と絵を交互に見ながら
じっと立ち尽して彼女の話を聴いた。


やがて、絵の中の彼女は最期の時を迎えようとしている。
彼女はもう黙って、それを少し寂しそうに眺めていた。
絵の中の彼女の後ろには、男が立っている。
暗がりの中に息を潜めて立ち尽くす僕の姿があった。









あまりに印象深い夢だったので、
起きてから夢の意味を考えたりしたが、
まるで解らない。
きっとこれからも見知らぬ誰かは僕の夢に現れるだろう。
そして僕は彼らの話を黙って聴く。