忘れ物を届けねばならない
或は
借り物を返さねばならなくて
僕は酷く焦った気持ちで足早に歩いている。
急いで届けねばならぬというのにしつこく電話が鳴る。
「はい、もしもし」と電話に出るも
相手は一方的に何か捲し立てるのみで、こちらの返事は耳に入らぬらしい。
或は何か電話の不調でこちらの声だけ聞こえていないのか。
会話が成り立たず無意味なので電話を切る。
また電話が鳴る。
矢張りこちらの声は届かぬ様だ。
しつこく掛けて来るからには何か大事な用件だろうが、
返答が届かぬのでは話す意味も、聞く意味もなかろうと思う。
僕は電話を切って、鳴り止まぬそれをそのままにして駆け出した。


場面が変わって、四五人ほどでテーブルに着いている。
旧知の仲であるらしいが、然程親しいという訳でもない。
少し呑んで談笑し、用事のある者からテーブルを去って行く。
最後に残った僕は、皆の勘定を済ませて店を出た。
閉店時間を過ぎても長居してしまっていたらしい。
店主の態度に棘がある。
皆勘定を忘れて帰ってしまった。
驕るのは少しもかまわないが、何だか面白くない。
御馳走様、と笑顔を向けられるでもなく、誰かが喜ぶでもなく、
只忘れ去られた勘定を済ませたに過ぎない。
それは少しも面白くない。
何処かから「誰それは外で食事をするのに財布を持って出ない」 
という話が耳に入る。
益々不愉快になる。
なめるな、と思う。


目が覚めると、焦った気持ちと、酷く不愉快な気持ちとだけが残っていた。