覗いた顔


いつもの様にベッドに横になって本を読んでいた。
急に抗い難い眠気に襲われ、本を開いたまま胸の上に置き、
うつらうつらと少し眠ったが、
寝返りを打って本をくしゃくしゃにしたり
破いたりするのが少しだけ気掛かりで、
結局よく眠れずに目を覚まし、続きを読もうともう一度本を手に取る。
仰向けになって本に目をやると、視界の隅に何か映るものがある。
ベッドの足元にある隣の部屋との境から、
何か黒いものが覗いている。

ゆっくりと少しづつこちらの部屋へ出て来るそれは、
黒い髪の生えた人の頭の様であった。
それはそーっとそーっと、鼻から上だけを出してこちらの様子を伺っている。
恐る恐る本から目を離してそちらへ目をやると、
スッと隣の部屋へ引っ込んだ。


一瞬だけ目が合った。
どろりと濁った無表情な目。


そのまま身動き出来ずに居ると、
また頭がゆっくりと出て来る。
今度はそこから目を離す事が出来ない。
それは無表情な目でこちらをじっと見ている。


隣の部屋から覗いたのは、
見覚えのある自分自身の顔そのものだった。


それはチィさんがベッドの上に居る時に
自分がよくやる悪戯だった。
もっともチィさんは驚いたりせずに、
ただ呆れた様な顔でこちらをじっと見るだけだけれど。




目を覚ますと本は開いたまま、胸の上にあった。
枕カバーが汗でぐっしょり濡れている。