深夜、ベッドでHEMPを編み編みしていた。
チィさんはHEMPの上にどっかりと居座って
邪魔をするのに余念がない。


視界の端に動く物があるので、
手を休めてそちらを見ると、黒い物体が壁を移動していた。
あまりに久し振りに見たので、暫くはそれが何なのか解らなかった。
いや、いくら久し振りの対面とは言え、解らない筈はないから、
きっと解りたくなかったのだろう。


僕はこれからこの部屋で眠る。チィさんはこの部屋で食事をする。
見なかった事にしたいけれど、このまま放っておく訳には行かなかった。
ナイフを取り出してキッチンに行き、空のペットボトルを上下半分に切断した。
蓋の付いていた方を逆さにして重ねる。
すぐに戻って黒い生き物の上からペットボトルを素早く被せた。
黒い生き物は一頻り暴れてペットボトルの中に滑り込んで行く。
素早く壁から外して、ペットボトルの口をティッシュで塞いだ。
一度入ってしまえば、逆さになった擂鉢状のペットボトルの狭い口から
外へ逃げ出すのは容易ではない。
中身が見えない様に何重にもビニール袋に包んで一階へ。


二階に上がって来て漸くほっとした。
チィさんはベッドの上で呑気に寝ている。
後で考えてみると、ペットボトルで簡易に罠を作ったのは
自分でも驚くべき手際の良さだった。
処理するまでの速度も尋常ではなかった気がする。
まるで何かが乗り移って、変わりに処理してくれたかの様だった。


瞬時に戦闘モードに切り替わるほどにかの生物が苦手だ。
有難い事に今の住まいでは殆どお目に掛からないが、
ずっと以前の住まいでは日々戦いに明け暮れていたのを思い出す。
100円ライターとスプレー缶で作った簡易火炎放射器
いつも枕許に置いて眠っていた。


昨日の黒い客はきっとたまたま訪れただけだとは思うけれど、
夏場でもある事だし矢張り何か対策を施そう。