変わらない場所

思いがけず、
学生時代によく通った珈琲屋へ行く機会を得た。
開業してからもう二十七年目になる事を知る。


周りの街並みはすっかり変わってしまったけれど、
店の中に入ると、初めて行った日から
時間が止まっているかの様に、殆ど何も変わっていない。
テーブルの位置が少しずれただけ。
マスターがほんの少し歳をとっただけ。
珈琲の香りも味も変わらない。


店を出る時に
「お久し振り…ですね?」と声を掛けられた。
僕はいつも窓の外ばかり見て、黙りこくっている様な客だったから
マスターと親しく話した事は殆どない。


懐かしい場所が変わらず在るのは嬉しい。
そういう場所は何時の間にかなくなってしまう。
「懐かしい場所」も「懐かしい人」も、もう随分失ってしまった。