猫を彫る

静寂と暗闇

猫を彫る。
猫は僕にとって、
一番身近で
一番彫りたくて
一番彫るのが難しい。


これまでも何度か彫ろうとしたのだけれど、
結局一度も巧く彫り上げられなかった。




賢者が静かに目を閉じ、
深い瞑想に耽っているかの様な風貌をしたその猫は、
目を開けば右の瞳は澄んだ青、左には金色に輝く美しい瞳を持っている。


そしてその猫は、ずっと音の無い世界に住んでいる。
猫がどんな風に鳴くのかを知らないから、
猫の声では鳴かないのだそうだ。
鳴く代わりに「叫ぶ」のだ。
「伝えたい事」を精一杯「叫ぶ」。
きっとその叫びは、どんな猫の鳴き声よりもはっきりと
伝えたい事を的確に伝えるだろう。


今はその美しい瞳にも、何も映らなくなってしまった。


名を呼んでもその声を聴く事はない。
背骨は湾曲していて真っ直ぐ歩けない。
そして今度は光をも失った。
それでも懸命に生きている。
音の無い暗闇の中で。


今は椅子の下でじっと瞑想するばかりとなったその猫が、
どれほど愛しくて、どれほど特別な存在なのかよく解る。
痛いほどによく解るのだ。
だからどうしても彫り上げたい。
今度こそ。