地震と電話

地震があると 電話が鳴って
あなたは決まって
「揺れたか?そっちは大丈夫か」
と訊くのだ。
「お前の家は襤褸屋だからな。
すぐに潰れてしまうぞ、気を付けろよ。」
と。


僕はもう そこには居ない。


あなたが言うその家に住んでいたのは、
ずっとずっと昔の事で、
それから何度か住む街を変え、
それから随分歳をとって、
あなたも僕も 変ってしまった。


何度も説明したけれど
あなたの中で僕は 永遠に時を止め
今もずっと あの家で猫たちと暮らしている。


僕は決まって
「大丈夫。ほんの少し揺れただけだから。」
と返事をする。


たったそれだけの短い会話を
これまで何度繰り返しただろう。


あなたと三分より長く電話で話した事は
一度もない。


僕はあなたに
そんな不器用なところだけが似てしまった。




いつか
地震の後に電話が鳴らなくなったら
僕は少しだけ 泣くのかも知れない。