五年目の夏

今日は蒸し暑かった。


その知らせを聞いた日も こんな蒸し暑い日だった。




その人が逝ってから もうすぐ五年になる。


なぜ死を選んだのか
五年経った今も、僕には解らない。


まだすべき事は、あった。


そんなに孤独だったろうか。


酒盃を握り締め、強い眼差しを向けて、
「俺は絶対に自分で死んだりしない」と、
そう言って頷き合ったのではなかったか。


強い人ではなかった。
自分の弱さを知り尽くした人だった。
だから巧く折り合いをつけて行けるのだろうと思っていた。


「這う様にしてでも生きてやる」と、
そう言ったのではなかったか。


ギラギラとした人だった。
どんなに不様な姿になったとしても
ギラギラと生き抜くのだろうと思っていた。




知らせを聞いても
哀しみも憤りも感じなかった。
只、どうして、と思った。
どうして、どうして、と思いながら電車に乗った。


棺に納まったその人は
静かな顔で横たわっていた。
穏やかな顔だった。


どうして、


憤怒の形相を浮かべていると思ったのだ。
唇を噛み締め、無念だと訴えていると思ったのだ。


どうして、


僕は余計に解らなくなった。


どうして、


どうして、


どうして、










五年目の夏が来る。


僕にはまだ解らない。