とてもとても高い鉄塔の様な、旧い建造物の上層階。


窓の側に寄らなければ
下の景色が目に入らないほどに高い。


下が見たくて窓の側へ行くと、鉄塔を取り囲む様にして
H鋼と薄い鉄板の様な物で組まれた足場がある。
頑丈そうだが、所々錆付いて、
組まれてからかなりな歳月を経ている。


窓を開けてみると、外は強い風が吹いていて、
足場迄のほんの少しの距離も
跳び移るのが困難なほどに感じられた。


高い所が恐ろしくて堪らない筈なのに、
僕は足場へ跳んだ。


すぐに、「ギン!」という耳障りな音をたてて、
足場の鉄板を留めていた長いビスが抜け落ちて行くのが見えた。
錆付いていたそれらは、端から順に「ギン!」「ギン!」と
一本、また一本と抜け落ちて行く。
鉄板が撓んで、もう真っ直ぐ立っていられない。
中に戻らなければ、と思ったが、
もう足が竦んで、跳ぶ事は出来なかった。
H鋼に取り縋ろうともがいたが、手は汗でぬるぬると滑り、
掴まる事の出来る様な突起物も見当たらない。


そうしている間にも
沢山のビスが大きな音をたてては抜け落ち、
そして静かに、ゆっくりと落ちて行く。
その度に足元が揺れ、鉄板が紙の様に歪んで行った。




どうして窓の外に出てしまったんだろう。
そう思いながら、最後のビスが抜け落ちるのを見た。


さっきまで足場だった鉄板は、
紙の様に頼りなくひらひらと舞いながら落ちて行く。


落ち始めるともう、
足場で感じていた恐ろしさは消えていた。








落ちる夢を見ると
ビク!として飛び起きる事が多いのに、目は覚めなかった。
どこまでもどこまでも落ちて行く。


下には着かなかった。