出かけようとして玄関を開けたら
黒い鞄に青い制服をキッチリ着込んだ
イケメン風お兄さんが立っていた。


そうだった。
今日はガス会社から安全点検に来る日だったのを、
すっかり忘れていた。


掃除もしていなくて少々バツが悪かったが、
仕方がないので部屋へ通した。
パパッと洗濯物を取り込んで、
ガス器具の置いてあるところへ戻ると、
イケメン兄さんの目が妙に泳いでいる。
先程までとは明らかに態度が違う。


何事かと思ってお兄さんの目線を追って机の上を見たら、
先日友人からもらった力飴が出しっぱなしだった。


お兄さんはそのまま妙におどおどしつつ
安全点検についての説明を大急ぎで終え、
階段を転げ落ちる様にして逃げ出して行った。


最初は しまった! と思ったが
その頃になると少し面白くなって来ていたので
鼻に掛かった甘ったるい声で
お兄さんの背中に
「御苦労様でしたぁ〜ん♪」と声をかけておいた。
振り向きもしなかったのは言うまでもない。



チィさんは珍しく
突然の訪問者にも驚く事もなく
いつもの場所で物珍しそうに一部始終を眺めていた。
男嫌いじゃなかったのか。
イケメンならいいのか。