小さな頃 大好きだった犬の事を思い出した。
隣りの家で飼われていた大きな雑種で
「ナビ」という名前の犬だった。
「ナビゲーター」が名の由来だったのかどうか
今となってはもう解らない。


毎日のように犬小屋で一緒に昼寝をした。
雨の日はビニール傘を開いて犬小屋の出入り口を塞ぎ
ナビにくっついて眠る。
傘が風に飛ばされそうになると
ナビは前足で柄を押え、口で元の場所に戻した。


一緒に散歩に出かければ、何かに気を取られて
ふらふら車道に飛び出しそうになる僕の袖口を咥えて歩道に引き戻す。


叱られて犬小屋に逃げ込んで泣いていれば鼻面でそっと頭を撫でてくれたし、
どちらが犬なんだか解らないような付き合いだった。




ナビとの別れは突然で
最後を看取る事も、別れを交す事も出来なかった。


僕は食事を殆ど摂らなくなり
誰とも話さなくなり
笑わなくなった。


ナビが埋められた隣家の庭の隅を
毎日眺めてはぼーっとしていた。


随分長くそんな事が続いて
家族も呆れて何も言わなくなった頃、
ある日ナビの埋められた場所に行ってみると、
色とりどりの沢山の花が咲いていた。
色々な種類の花が、今思えば随分出鱈目に
ぎっしりと。



長い間、呆けたようになっている僕を、
見るに見かねた隣りのお婆さんが植えたものだった。
「ナビが心配して咲かせたんだよ。元気を出してねって。」


僕はまだそれを信じる事が出来る歳だった。




犬が好きだ。
だから犬と暮すのは怖い。

最近になって、
それは猫も人も同じだという事に気が付いた。




「トゥルーへの手紙」という映画が気になっている。
http://www.alettertotrue.com/
でも観るのは少し恐い気がする。