うろ話

慣れ

今週のお題「ちょっとコワい話」 久し振りに覗いたら、Blogのお題、というのが目に入って、それが「ちょっとコワい話」というので、暑気払いになるかどうか判らないけれど珍しく乗っかってみることにする。 まだ猫一匹と人一人で暮らしていた頃、ちょっとし…

非常扉

段々に冷えてきた所為か、またもや腰を痛めてしまった。 普段からあれこれ工夫もして気をつけている筈なのに。 前回の時程ではなく、時間を掛けさえすれば何とか自分で立ち上がれるから、まだマシだと思う事にする。 とは言え子供の送り迎えも満足に出来ない…

静かなる隣人

ちょっと耳にした話から、ずっと以前、学生時代に下宿していた頃の話を幾つか思い出したので、ここに書き記す。 もしかしたら前にも触れた事があったかも知れないが、よく思い出せない。 学生時代に暮らした部屋は、兎に角家賃が安いという事を優先して選ぶ…

くろいしと

長男が時々興味深い事を言う。 次男が風邪をひいて体調の良くなかった時だったか、昼寝のタイミングを逃して薄暗くなり始めてからしきりにぐずり出したので、家の中を静かにするため長男を外に連れ出した。 家を出て駐車場の横を通り過ぎる時、突然ハッとし…

アボカドの唄、後日談

urone.hatenablog.com 後日、妻が「歓喜の歌」の歌詞を調べて教えてくれた。 花さく丘べに いこえる友よ吹く風さわやか みなぎるひざしこころは楽しく しあわせあふれひびくは われらのよろこびの歌 (岩佐東一郎作詞・ベートーベン作曲/文部省唱歌「よろこ…

歓喜の歌

子が早くに寝静まった日には、僕の部屋で妻と映画を観る。 昨日も二本ほど観終え、それぞれの部屋に別れてパソコンに向かった。 部屋を暗くしたまま暫くパソコンの画面を見ていると、ごく微かな音量でハミングが聴こえて来るのに気付いた。 知らずにブラウザ…

生前狩猟を趣味としていた祖父の屋敷の壁には 様々なハンティング・トロフィーが並んでいました。 大きなヘラ鹿や、見事な毛並みと牙を持った人喰い虎、 世界中のありとあらゆる猛獣たちの剥製。 その中でも祖父の一番のお気に入りだったのが、この妖獣の首…

前に行った簪博物館で、銀蒔絵の見事な櫛を観た。 図柄は「狐の嫁入り」で、月灯りに照らし出された銀の野を 金色の眼をした狐たちが粛々と駕籠を担いで往く姿が描かれている。 時を経て少し燻しがかかった銀地の野原を行く狐たちの様子は とてもとても静か…

一度だけ、きりんの舌に触った事がある。 僕は小さな頃から、よく一人きりで動物園に通った。 そうして閉園時間の放送が流れる迄、園内をぶらぶらして 檻に入れられた動物や、家族連れや、大勢の人たちを眺めた。 その日は薄曇りで肌寒く、只でさえ来園者は…

料理も掃除もまるでする気にならない。 暑さの所為か、元々怠惰な性格の為か、多分その両方だろう。 このところ分不相応に外食ばかりしていたし、 本当はきちんと自炊をしなければならないが、 面倒だし素麺か茶漬けでも、と思っても、 湯を沸かすのも嫌にな…

今日も長い雨が降った。 出掛けもせず、無精髭のまま酷く皺くちゃなシャツを着て過した。 洗濯は好き、と言うか洗濯物が溜まるのが嫌いなので、 一度袖を通したものはどんどん洗濯機に放り込んでガンガン洗う。 そうやって常に清潔なものを着ているつもりだ…

案山子の王が言いました 案山子と生まれてきたからにゃ どんな鴉も追わねばならぬ あの鴉にも子があり母があるのです 僅かな麦を啄んだとて どんな罪があるでしょう 案山子の王が言いました 案山子と生まれてきたからにゃ どんな鴉も追わねばならぬ 鴉を追わ…

先日人と話していて思い出した事。 以前にも書いた事があるけれど、人と話す時、無意識に その人の皮膚の下にある頭蓋を思い描くという妙な癖があって、 丸く形の整った後頭部の見事な曲線や*1 華奢で優美なアーチを描く頬骨や 角の丸い可愛らしい眼窩に感嘆…

先日人と話していて思い出した事。 美術学校に入ってすぐに、 木を素材にして自分の手を彫らせる という課題があった。 必要最低限の道具が与えられ、限られた時間内に 自分の利き腕ではない方の手で時々握り拳を作り、 それを見ながら彫るのだが、これが驚…

【中国】コーラを3年間毎日飲んだ少年がカフェイン中毒で精神錯乱〜 学生の時分に、コーラが好きで好きで、 それはもう誰もが呆れるくらい、馬鹿みたいに好きで、 と言うか毎日コーラを飲まないといられないコーラ中毒で、 空になったコカ・コーラの大きな1…

毎朝、ソララは起きるとベッドの隣りにおいてある木のムーンブーツに指を指します。 渡してあげると、木のムーンブーツしっかり抱き締めてキスしてあげます。 以前に彫ったムーンブーツが、ソララちゃん*1 に とても大切に可愛がってもらっている事を知る。 …

初めて煙草を手にしたのは、まだ小学校に通っていた時分で、 近所にあった駄菓子屋の、煎餅なんかが入れられている硝子ケースの上に 無造作に放り出された赤い箱から何本かをくすね盗って、 薄暗くなった公園の土管の中にしゃがみ込んで火を点け、 ゆっくり…

昔、友人の家で一振の軍刀を観る機会があった。 蔵から見つかったと言うその刀は、 恐らくは昭和刀を軍刀仕立てにした実戦向きのもので、 何の変哲もないものではあったが、儀礼用ではなく 実際に“使う”為の簡素な意匠には凄味があり、 鞘をはらって刀身を覗…

 千代

その猫は小さな植え込みの影から、のそりと姿を現した。 あまりに唐突で、まるで何もない暗がりから 突然猫が湧いて出た様にも思え、僕はその猫が、 たった今影の中を潜り抜け、別な世界からこちらの世界に 抜け出して来たばかりなのではないか、等と夢想す…

よく動く長い尻尾。 黒くて小さな、素早い影の様な猫だった。 大好きだった黒猫の事を思い出した。 美術予備校の敷地内に住んでいて、 その頃から講義を抜け出す癖のあった僕は、 アトリエの中に居るよりも その猫と居る時間の方が長いくらいだった。 黒猫は…

夜も随分更けてから、コインランドリーへ行った。 洗濯が終わるのを待つ間、近所のドラッグストアで買い物を済ませ、 乾燥機を使う為にまたランドリーへと戻る。 こんな面倒な事を、学生の頃は毎週の様にしていたのかと思うと 何だか不思議な気持ちになる。 …

深夜のディスカウントショップにて。

ダークグレーのレインコートに目深に被った黒いつば広帽が 魔女を思わせる初老の御婦人。 両手に抱え切れないほどの荷物を下げ、 身体を左右に揺らしながら店内を忙しなく歩き回っている。 側を通る度に強い異臭が鼻を突く。 店の黄色い買物籠からは溢れんば…

壊れていたテレビが奇跡的に息を吹き返した。 数ヶ月振りの事である。 前に点いたのはいつだったのか思い出せない。 これを逃したら、先日の写真展で買って来たDVDを観る機会は また暫く巡っては来ないだろうと テレビを何日も消さぬままにして、何度も何度…

時折 招かれざる客でもやって来た様な 乱暴な音を立てて ごとごとがたがたと 雨戸や玄関の扉が叩かれた。 一日中強い風が吹いた。 何処かの家の洗濯物が飛ばされ 鉢植えが倒されて割れ お店の立て看板は何処か別な処へ旅立とうとしている。 がたがた揺れる雨…

あるようなないようなあるようなないような (中公文庫)作者: 川上弘美出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2002/10メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 12回この商品を含むブログ (84件) を見ることエッセイに関しては 読んでいる最中に何度心の中で頷いた…

“男らしい”とか “女らしい”とか そういう表現を見たり聞いたりする度に 尻の辺りがむずむずする様な 何処か割り切れない居心地の悪さを感じる。 それは 憤り と呼べるほど強いものではなくて、 その証拠に、僕自身も時折そういう表現を使ってしまう。 そして…

応接間に置かれていた琵琶の事を思い出したら 芋蔓式に別な物の記憶も辿る事になった。 応接間の飾り棚に入っていた 真珠貝で出来た小さな彫り物の事。 それは人の腕の形をしていて 手首には小さな数珠が巻かれ、 小さな爪までが丹念に彫り込まれている。 柔…

クリスマスに思い出した話。 帰省した時に 実家のすぐ側にあるケーキ屋で両親と食事をした。 この店はケーキ屋だが、少し気の利いた軽食も出す。 よく晴れて気持ちの良い昼下がりだった。 テーブルについて食事が運ばれて来るのを待つ間に 母がぐるりと店内…

先程、喉が乾いていることに気付いて 隣の部屋へ飲み物を取りに行った。 戻って来たら、白粉の匂いがする。 最初は気の所為かとも思ったが、 暫くすると香りはどんどん濃くなって 疑い様のないものになった。 勿論自室に女性用の化粧品など置いてある筈もな…

薔薇園の夜間のライトアップが今日迄だというので、 駒込の旧古河庭園と、ついでに近くの六義園へ行った。 六義園は考えていたのよりもずっと広く、 風が心地良かった。 雨上がりの濃い緑や、むせかえる様な香り。 久し振りに見た。嗅いだ。 旧古河邸へは以…