歯医者の予約が午前中だったのに
二度寝して起きたらぎりぎりの時間になっていた。
歯を磨きながら着替えて自転車に飛び乗り、
隣駅まで全力で立ち漕ぎして階段を駆け上った。
何とか予約の時間に間に合ったが、
待合室でいつまでも動機と息切れが治まらなくて
寝起きに馬鹿な真似をするもんじゃないなと思い知る。
口の中がカラカラだった。


新しい銀歯が入った。
笑うと獅子舞みたいな大きな銀歯。
どうも食べ物が挟まり易い気がして閉口する。
「歯は自前のが一番じゃよ ふがふが…」とか言いたい気分。
鮫みたいに次ぎから次ぎへと新しい歯が生えて来るなら便利なのになー
銀歯だって自分で削れたらもっと使い易く出来るのに。
道具はある。スパチュラーもリューターも研磨剤もある。
でも自分の口の中に工具突っ込んで削る勇気はない。
後ろ髪を切る時にもよく思うけど、
首を取り外してテーブルに置いて、
それからじっくり作業出来るなら、
歯の治療だって何だって自分でやってのけるのに。
他人になんて任せたりしないのになあ。


そう言えば最近人の顔によくお化粧をする。
木彫の彩色でやってきた事がそっくりそのまま使える事が解って
なかなかに楽しくて、化粧品の使い方にも少し慣れた。
ここに陰を落として、この色合いを際立たせるにはこっちに別な色を置いて…
とやってると、いくら弄っていても飽きない。
やっぱり立体物に彩色するのは楽しい。
眉の描き方一つでがらりと表情が変わったりするし、
目の錯覚を利用してまるで別な印象のものに変えてしまう事も出来る。
面白がって特殊メイクみたいに弄り回してたら叱られそうだけど、
人の髪を切ったりお化粧してあげたりするのは
何だか彫刻をしているのに感覚がとても近い気がする。
佐藤忠良も、もし彫刻家にならなかったら髪結いになりたかった、
と何かの番組で話していたのを聞いた。
シベリアに抑留されていた時には
同じ部隊の人たちの髪を頼まれて切っていたそうだ。