潮騒の音
写真を見て
はっきりと、撮影時に感じた
匂いや感触を思い出す事がある。
父と一緒に写った古い写真を見た。
父が育った海の近くで撮ったものだ。
両頬にはっきりと
分厚くて暖かな父の掌を感じた。
いつからか
父は昔の事を巧く思い出せなくなった。
厳格で、恒に自己を律し
理性的であった人が
そう振舞えなくなる事が
どれほど辛く哀しい事か
どれほど恐ろしいか
ぼくはどう受け止めてよいのか解らない。
会いに行かなくちゃ、と思う。
会うのが恐い、とも思う。
ぼくは少しだけ、父に似ている。