参道の奥に

奥へ行ったら戻れないかもよ

何故だか急に思い出したので
また忘れてしまわないうちに書き留めておく。


学生時代に通学の為、自転車を購入した。
新しい自転車が嬉しくて、夜な夜な友人を誘っては
随分と遠くまでサイクリングに出かけた。


いつものように下宿を出て
ふらふらと目的もなく自転車を漕いでいくと、
ある時、玉砂利の敷いてある大きな参道のような場所に出た。
その奥には大きく立派な木々の黒々とした樹影が見える。


「こんなところに神社でもあるのかな、
随分と奥行きがあるようだけれど
何だか淋しいところだなあ」
などと思いながら、奥に何があるのか見たくなって
漕ぎにくい砂利道を奥へ奥へと進んで行った。


が、何処まで行っても本堂らしきものが見当たらない。
辺りはどんどん暗くなって、
白い玉砂利が月明かりに照らし出されて
ぼうっと光って見える以外、明かりらしきものもない。
その先はまっ暗な闇に包まれて
何処まで続いているのか見当もつかない。


「随分と奥へ来ている筈なのに、
何も見えてこないのはおかしい。
薄気味悪いから引き返そう。」
何度も友人が後ろから呼びとめる声がする。


そう言われて考えてみると
どのくらい玉砂利の上を漕いでいたのか思い出せない。
足が急に重くなったようで、この先へ踏み込んだら
気も重くなりそうだった。


引き返す事にすると、
二人とも驚くほど呆気なく参道の入り口に辿り着いた。
釈然としないまま黙って漕いで下宿に戻ったが、
あの奥に何があったのか気になって仕方がない。


後日一人でもう一度行って、
今度こそ引き返さずに行けるところまで行き、
奥に何があるのか見届けようと考えて
この辺りだろうと思う場所を隈なく走り回ってあの参道を探したが、
どうしても辿り着く事ができなかった。


いくら酷い方向音痴でも
あれほど大きな樹影が見えない筈はないのに。






あの時引き返さずに奥まで行っていたら
どんなものが見えたのか、今でもたまに思い出しては
どこかがむずむずとするような、おかしな気分になったりしている。