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「お覚悟召されよ。」とチィさんが言う。
「覚悟ならば、とっくに。」と僕が笑う。
そういう、関係でありたい。


「覚悟などしておいても、何の役にも立たない。
その時が来たら、あるがままを受け止める他、為す術はない。」


異口同音にそういったお話を聞く。
僕にそう仰ったお二方は、
長い間一緒に暮らしてきた猫を亡くされたばかりで、
その言葉の重みたるや、凄まじいまでのものがある。
心の底からそう感じたのだろうという事が痛いほど伝わって来たし、
全くその通りなのだろうと思う。
どう覚悟しておいたところでうろたえるだろうし、
哀しくて寂しくてやり切れないだろう。
少し想像してみるだけで、自分の何処かに穴が開いて
砂がさらさらと漏れ出す様に何かが欠落して行くのを感じる。
怖ろしい。


それでも臆病な僕は、何かをしておかなくては、と足掻いてしまう。
無駄と知りつつ空虚な覚悟を持とうとし、虚勢を張り、
感情の一部を切り離す事で平静を保つ術を身に着けようとし、
或いは考えないで忘れようとする(これはいつも上手くいかない)。


失う事を畏れるあまり、一番大切なことを見落としそうになる。
役にも立たぬ覚悟など用意しておくよりも、今を大切に、と。
お二方とも辛い思いをしたばかりなのに、
僕にそう仰って下さったのだった。
きっとそれが一番伝えたかったことなのだろうと
今更ながら思い至る。


肝に銘じたい。