何かが壊れたりなくなったりすると、
悲しいとか寂しいとかを感じる以前に
大切な何かがスカンと抜け落ちてしまったまま、
大事な事を忘れて場違いな場所に来てしまった様な
心許ない気持ちになる。
同時に、肋骨の間を風が吹き抜けて行く様で、妙に清々として
もうじたばたしないでこのままでいよう、という様な、
奇妙に静かな、凪いだ気持ちになる。


そんな時は自分の存在が紙の様に薄く、軽くなっている様に思う。
寂しかったり悲しかったりするのを薄らと感じるのだけれど、
それは何だかずっと先の遠いところにあって、
手で触れて確かめられる場所にはない。
人事の様に他所他所しい哀しさだ。


そういうものをもう受け止めたくなくて、
無意識に遠くに置いて、感じない様にしているのだろうか。
逃げているんだろうか。
怖いと思うのは、
そういう状態に畏れを感じなくなっている事に気付いたからだ。
すぐにそこへ逃げて行こうとする自分に気付いたからだ。


痛みを感じなくなるのは恐ろしい。