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深夜のディスカウントショップにて。


ダークグレーのレインコートに目深に被った黒いつば広帽が
魔女を思わせる初老の御婦人。
両手に抱え切れないほどの荷物を下げ、
身体を左右に揺らしながら店内を忙しなく歩き回っている。
側を通る度に強い異臭が鼻を突く。
店の黄色い買物籠からは溢れんばかりの食料品や菓子類。


御婦人はレジで支払いを済ませ、店外に向かう。
停めてあった自転車のハンドルには、
すでに両側に三つづつほども買物袋が下がっている。
どれも大きく膨らんで重たそうだ。
更に前籠には買い物袋が高々と積み上げられている。
後ろの荷台にも荷物がいくつか括り付けられている。
肉のハナマサと書かれたビニール袋からは、大きな肉の塊が透けて見えた。
自転車の横には2リットル入りのペットボトルが
6本入ったダンボール箱が置かれている。
その箱だけで12キロはあるという事になる。


御婦人は今支払いを済ませた物を、
それぞれの買物袋に分けて詰め始めた。
ぐいぐいと無理矢理押し込んで行く。
袋は今にも裂けてしまいそうだ。
袋の底でスナック菓子が砕ける音がした。
肉が潰れてビニールに張り付いている。


どう考えてみても全ての荷物を運ぶのは無理だろう。
自転車にはもう何処にも荷物を括り付ける場所はない。
12キロのダンボール箱はどうするんだろう。


僕は少し離れたガードレールに腰掛けて、
煙草を吸いながらその様子を眺めていた。
どんな家に帰るのだろう。
待つ人はあるのだろうか。


荷物で一杯の自転車の前で、
魔女は怒った様に荷物を詰め続ける。
それは何だか
酷く寂しい光景だった。
魔女がどんな魔法を使うのか気になったけれど、
僕は振り向かずにその場を後にした。