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soiさんが遊びに来て数日逗留して行った。
お天気が優れず、案内出来るところもあまり知らないものだから
退屈させてしまうのではないかと気を揉んだが、
別れ際にとても良い笑顔でにっこり笑って、
「ありがとう、また来ます」と言ってくれたので、
こちらも嬉しくなる。


実は少し嫌な思いをした後で、
それが自分の理解の範疇を超えるものだった事と、
自分の理を押し通せば否応なく巻き添えになって
辛い思いをさせてしまう者がある為に
押し黙ってやり過ごさなければならず、
気持ちに折り合いをつけるのに少々手間取っていたのだけれど、
踏み荒らされて心許なくなっていた足場を
客人が綺麗に踏み均して行ってくれた様な気がして救われる。


この日はたまたま近くに来ていたサーカスの公演を観に出掛けた。
随分昔に同じサーカス団の公演を同じ場所で観た事があり、
その頃の事等懐かしく思い出しながら観た。
当時とは幾分様子が違っていて、
海外から招いたと思しき演者が次々と現れては色々な芸を披露する。
どれも興味深く観たのだけれど、
矢張り動物が出て来ると目を奪われる。
キリンはテントを潜って現れただけで歓声が上がっていた。
ステージをゆっくり一周して、客が手渡された餌を与えると、
その客の頭の上でゆっくりと咀嚼をして食べカスを降らせる。
それだけのことで、特に何の芸を披露するでもなく
そのまま退場してしまったのだけれど、
それでも狭いテントの天井に支えそうな大きさのキリンには
有無を言わさぬ迫力があった。


虎とライオンとライガーに芸をさせる、猛獣使いの出し物もあった。
ライオンは元々群れを成して暮らすからか、
猛獣使いが激しく鞭を打ち鳴らしても
鷹揚に隣のライオンに頭を擦りつけていたりして和む。
虎はライオンやライガーに比べると一回りも二回りも小柄なのに、
牙を剥いて隣のライオンを威嚇したり、
鞭の音に怒った様子を見せたりして獰猛な感じ。
猛獣使いの手許から一瞬でも鞭を遠ざけたりすれば、
何の迷いもなく襲うだろうか。
鞭打たれて無理矢理芸をさせられるのだから、
それも致し方なし、と覚悟をした上での仕事なのだろう。
猛獣使いと猛獣たちの間にも、痛みや恐怖以外の部分で
何か通ずるところはあるのかな、そんな甘いことを考えていたら
命取りになってしまうのかな、等と考える。


サーカスなんて子供が喜ぶ様な出し物しかなくて、
大人ばかりで行って楽しめるだろうかと少し心配したけれど、
充分に楽しめた。
昔小さな頃に観た時よりも、今の方が素直に楽しめている気さえする。
今よりもずっと捻ていたのかも知れない。


テントの中の、少し現実離れした様な何処か胡散臭い雰囲気は独特のもので、
その場に行かなければ味わう事が難しいだろうから、
出掛けてみて良かったと思う。


帰り際に売店で奥さんが気に入ったホワイトタイガーのぬいぐるみを買う。
子供じみているかも知れないけれど、何か小さなものを持ち帰ると、
楽しんだ名残がずっと手許に残るような気がして、
その僅かな名残が後々まで気持ちの何処かを暖める様で、
僕はつい何か、持ち帰るのに手頃なものを探してしまう。
それはポケットにしまっておける様な、ほんの小さなものでかまわない。