ホテルで簡単な朝食を摂り、奈良へ向かう。
張り切って早起きをしたのに、向かうべき駅を間違えて
乗り換えの連絡が巧く行かず、奈良に着いたのは昼前になってしまった。


この日もムトンさんのお世話になる。
奈良へは一度来た切りで、それも博物館周辺を少し歩いた程度だから
殆ど初めての様なものだ。
旧い街並みの辺りも京都とはまた違った雰囲気で、
のんびりとしている様に感じられる。


僕たちが面白がりそうな処を適切に案内して下さるものだから、
どれも見逃さない様にと欲張り過ぎて目が回るくらいに楽しい。
旅行雑誌や事前にネットから得た情報だけではこうは行くまいと思う。
ありがたい。
鹿を撫で回して大仏さんに会いに行った。

夕方に一足先に帰る奥さんの後輩さんを見送り、
奈良駅まで迎えに来て下さったムトンさんの旦那さんの車に乗せて貰って
ムトンさんのお家に向かう。
写真でしか見た事のなかったななちゃんにやっと会えた。

大きくておっとりしてて少しも物怖じしなくて、物凄く可愛い。
長い間足許に座っていてくれたのがとても嬉しかった。


晩御飯を御馳走になった。
京都や奈良で口にしたものはどれも美味しかったが、
ムトンさんのお家で御馳走になったケーキや食事が一番美味しかった。
御主人がお忙しい中お付き合いして下さって楽しい話をして下さる。
書斎に置いてあったお気に入りの木彫りのクマに関する考察などは、
可笑しくておなかが捩れそうになった。
木彫りのクマは、青い半ズボンに白いランニングシャツを着て微笑んでいる。
「味のある好い顔してるでしょう、でもこれは素人の手による物だと思うんだよね。
ほら、シャツの襟ぐりが前も後ろも同じでしょ。
パンツもほら、前もお尻の処理も全く同じ。
何かお手本を見ながら何処かのおばさんが一生懸命彫ったんだと思うんだよね…」
よく見ると確かに言われた通り、頭以外は前も後ろも全く同じなのだった。
暖かみのある、いい笑顔だった。
寒いと聞いていた家の中は暖かさに満ちていて、とても居心地が良かった。
ななちゃんの背中や、楽しいものが沢山詰まったお部屋や、
ムトンさんがペイントした壁や、台所から聞こえて来る食器を並べる音、
家の中の話し声。そのどれもが暖かで、優しかった。


最初から最後まで、とても楽しい旅だった。