朝までビールを飲んでいた村井氏は少々二日酔い気味。
それでも帰る前に六本木の森美術館へ寄るという僕に付き合ってくれた。
万華鏡の視覚」という企画展示を観た。
アトラクション的な要素の強い作品が多く、
単体での印象は強く残らなかったけれど、
前日の画廊巡りから一環して、素直に楽しんでいる自分に気付かされる。
一巡りして原点に戻って来ているのかも知れない。
斜に構えて観る事に疲れてもいる。
楽しんで何が悪い、という様な気持ちがある。
好きなんだから、楽しみたいんだ。
身に付いてしまった余計な知識も無駄な情報も、
今は邪魔になるものは全て排除して、只、素直な気持ちで楽しみたい。



ミュージアムショップを覗いたら、奥さんが以前から欲しがっていた
サルバドール・ダリの顔がデザインされた時計を見付けた。
あの捻り上げた鯰髭が短針と長針になっていて、
秒針はダリがよくモチーフとして使った蟻になっている。
訊けば最後の一つだという。
土産は月光荘の鞄一つのつもりだったが、
見付けてしまったものは仕方がなかった。








村井氏に見送られて東京駅へ。
新丸ビルの上で、夕日が沈むのを観ながら
時間を掛けてゆっくりとアイスティーを飲んだ。
靴紐を締め上げて荷物を抱え、長い間歩き回っていると、
このままどんどん遠くへ行ってみたいという様な気持ちに手招きされる。
暗くなった車窓から木々や山影が飛ぶ様に流れて行くのを眺めていると、
帰る筈の場所をふと忘れそうになる。
何か忘れ物をしてきたのに、
何を忘れて来たのかどうしても思い出せない様な、
心許ない気持ちになる。