結婚祝いに日子さんが贈ってくれた食卓と椅子が届く。
現品限りでお値打ちになっていた品だけれど、
据えてみると厚い天板がずしりと落ち着いていて、
妙な言い方だけれど、家がぐっと家らしくなった様に感じる。
木地そのままなので、感触が柔らかで優しい。
食事の皿を並べてみても、これから食事をするんだ、と
少し改まった様な気持ちになる。
使っているうちに零したり焦がしたりして染みや傷が入り、
もっと年季が入った姿になる頃には、
家がもっと家らしくなっているだろう。


ああ、自分はここで暮らして行くんだな、と思う。
長い間の仮住まいで、何処に居ても
いつかはここから去るのだ、
という意識がなかなか抜けない。
一つところに根を張って生きていく、という事を
これまであまり考えて来なかった様に思う。
毎朝この食卓に着いて朝食を摂り、晩御飯を食べ、
時には客をもてなし、お茶を飲み、色々な話をして
長い時間をここで過ごすのだろう。


この頃「家」について考える事が多くなった。
帰るべき場所。
家族の在るところ。
まだ漠然としてはいるけれど、
その重みを感じられる様になった。
身の回りの事柄から、急にふっと切り離されて
何もない場所に一人きりで浮かんでいる様な感覚を
まだ時々思い出す事もあるけれど、
きっと巧く折り合いをつけて行けると感じている。