五月の傘

出掛けようとして、玄関のドアノブに
見覚えのあるビニール傘が引っ掛けられている事に気付く。


五月。
急に土砂降りになった雨に濡れ
玄関先で雨宿りをしていた親子に
返さなくてもいいと断り、ビニール傘を差し出した。


貸した事など、もうすっかり忘れていた。
あの雨の日を思い出す。
駅まで客を迎えに行った事。
友人との食事。


五ヶ月ぶりに戻ってきた傘は
色々な事が終わったのだと
色々な事が始まるのだと
知らせてくれている様で
暫くそこで揺れるままにしておきたくなる。