苺氷


出先でファミレスに入った。
起きてからまだ一度も食事をしていなかったが、
兎に角暑くて、メニューを開いても冷たいものにばかり目が行く。
苺のかき氷から目が離せなくなった。


冷房のよく効いた店内でかき氷を食べているうちに、
のぼせ上がった頭もすっかり冷えた。


店を出る前に手洗いへ行って顔を洗った。
手を拭いたペーパーナプキンを丸め、
洗面台に備えつけられている屑入れに放り込む。


おかしな物が目に入った。
屑入れは簡易な物ではなく、シンクの横にステンレスの回転式扉があり、
洗面台の下に取り外しの利くボックスが備えつけられているタイプの物だ。
シーソーの様になっている扉の端を勢いよく押し過ぎると、
扉が回転して裏が見える。


ステンレスの扉の裏には、
梵字の様な見慣れぬ文字が書かれたお札が二枚、
丁寧に貼りつけられていた。
よく見るとお札は手書きで、文字が濡れて消えてしまわない様に
貼り方にも工夫が施されている。


何故こんなところに、と周りを見廻してみたが、
小さな個室になっている狭い空間の中で、
客の目に触れぬ様に貼っておくには
そこくらいしかなかったのかもしれない。
備え付けられた屑入れの蓋の裏など、
もしかしたら店員の目にさえ触れないのではないか。


いったいどんな人物が、どんな理由でこのお札を貼って行ったのだろう、
と思いを巡らすのは、楽しい様な、薄ら寒くなる様な、奇妙な気持ちにさせた。