みかじめ料

先日の夢。

宿屋なのか小料理屋なのか、大きな店の一階で蕎麦を啜っている。

建物はかなり古く、時代掛っている。

近くの席にあまり人相の良くない男達が三人居て、先程から頻りに小声で何か囁き合って、良からぬ相談をしているらしい。

男達の風体は時代劇に出てくるような遊び人風で、町人を結っている。

僕の服装は時代劇風という訳ではなく、いつもと変わらない。

リーダー格らしき年嵩の男は、背は低かったが頑丈そうな体つきで、目付きが刺す様に鋭い。

もう一人の男は痩せて背が高く、爬虫類のように青褪めた表情のない顔をしている。

残りの一人は狐の面のように目が細く色白で、何がそんなに可笑しいのか、袂で口許を隠して始終にやにやと笑っている。

リーダー格の男が懐手にしたまま、「あんた今俺たちの話を聞いてたろう、聞いたからにはお前も一口乗れ。」というような事を言う。

断りたいが、そうすれば間違いなく面倒な事になりそうだった。

ここは話を合わせておいて適当なところで逃げ出そう、と思い、三人の男達に付いて行く事にする。

年嵩の男が「いいか、大きな音をたてるなよ。」と言い、静かに店の奥に向かう。

ゆっくりと二階に上がり、店の中を進む。

二階はお座敷になっていて、部屋数もかなりある。

時々店の者らしき人物と出くわすと、「お変わりありやせんか、御用心、御用心。」と口々に言い、さも店側に頼まれて見回っているかのように堂々と振る舞う。

何しろ大きな店なので、店の者がさぼっていたり、払いをくすねたり売り物に手をつけているような場面に出くわす事も少なくないらしく、そうすると(口を噤んでおいてやるから何かよこしな)と目配せをする。

出し渋ると、「ふてぇ奴だ!」と大袈裟に騒ぎ立てて、店主の前に引き出す。

そうやって小銭や手近にある物を強請り取ると、どんどん懐に入れる。

店主か番頭のような立場の者が、「御苦労様。」と心付けを渡すまで、店の中を隅々まで覗き回って延々とそれを続けるらしい。

時々は本当に泥棒や万引きなどを見付けて引き渡す事もあるらしく、役に立つ事もないわけではないが、店としては煩いからさっさと追い払ってしまいたくて、額もそう多くはないからというので大抵はすぐに心付けをせしめるのに成功する。

そうしたら慇懃に礼を述べて立ち去る。

この男達はそれが稼業らしい。

多く取り過ぎない、頻繁にたかりに行かない、時々は誰か適当な鴨を見繕って店に引き渡す、というのがコツらしい。

「どうだ、こんなに楽な稼業はねえぞ、お前も仲間に入れてやろうか。」

「ほら、最初の分前だ、取っとけ。」

年嵩の男に手首を捕まれ、小銭を握らされる。

男の手はがさがさして分厚く、暖かだった。

ごつごつした岩みたいな赤ら顔は、にやっと笑うと目尻に深い皺が刻まれ、人懐こそうな好々爺風に見えなくもない。

狐顔の男が「あんたそれにしても酷い格好だねえ、あたしが何か見繕ってやるよ。」と言って、また袂で口を隠して笑った。

背の高い男は話を聞いているのか聞いていないのか、空を見上げたままぼんやりと口を半開きにして風に揺れている。

そんな稼業に加わる気もないし、全く迷惑な話だと思ったが、段々とこの三人に興味が湧いて来た。

このまま深入りすれば抜けられなくなって厄介事になるのは目に見えているが、かと言ってどう逃げ出したものか、と思いを巡らせながら、真っ暗になった路地を三人の後から付いて行く。

 通りの先に赤い提灯を灯した店が見える。

男達は次はあそこへ向かうのだな、と思う。