灰色の部屋
半地下のようになっているマンションの一室。
洗面所には大きな鏡が張ってあり、その一部がマジックミラーのようになっていて、鏡の裏に小型のモニターが取り付けられており、来客があるとそこに映し出される。
古い装置で解像度は低く、映像はやや不鮮明でモノクロに近い。
モニターの老朽化で後日取替工事があるらしく、暫く使用不可になる、とのこと。
古いモニターが取り外されてみると、室内の照明を落とすと鏡の裏の共有部分が透けて見える事に気付いた。
各種配管やパイプがあるだけで普段人の入らない場所ではあるが、あちらからも部屋の様子が覗けてしまうのではないか。
薄気味悪くもあり、防犯上でも些かの不安を感じる。
共有部には何処かから浸水したものか、足首が浸かるくらいまで水が溜まっている。
水面に反射した光がゆらゆらと揺らめいて、洗面所を薄蒼く照らしている。
部屋の中に水が入って来る心配はなさそうだが、壁を挟んでいるとはいえ、こんなに水が溜まっていてはよろしくなさそうに思う。
部屋の角には嵌め殺しのブロック硝子が使われた明かり取りがあり、これも通りから覗き込めば室内の様子が覗えてしまうのではないか。
壁は薄いグレー、室内はベージュとグレーのものばかりで鮮やかな色合いのものは何一つない。
いつから降り続けているのかもう思い出せない長雨が、明り取りの窓を伝って落ちてゆく。
テレビの点いた室内で、子供達と妻はソファーで寛いでいる。
僕は独り、薄ぼんやりとした不安に苛まれている。
具体的に何をどうしたら不安を拭い去れるのか判らない。
曇った硝子の向こうで静かに降り続けている雨は、一向に止む様子がない。
近未来もののディストピア映画のような夢。
雨と解像度の低いモニターとくれば「ブレードランナー」みたいなのが思い浮かぶ世代だけれど、そんな洒落たものではなくて、只々漠然とした不安感と落ち着かない気持ちが残った。