記憶
日が長くなったので、時折保育園の帰りに公園へ寄り道をする。
ブランコを押していたら長男が唐突にこう言った。
「ねーねー、ちーくんが赤ちゃんだった時、ちーくんのこと、おばあちゃん抱っこしたよねー?」
「したよ。どうして?」
「おばあちゃんもう来ないの?」
「うーん、おばあちゃん遠くへ行っちゃったからねえ。」
「何処行った?」
「天国に行っちゃった。」
「天国ってなに?」
それで言葉に詰まった。
安易に「天国」などと言ってしまったけれど、それがどんな処なのか、あるのかどうかさえよく解らない。
「おばあちゃんはアイアンマンみたいにびゅーんてお空に飛んでっちゃったから、もうなかなか遊びには来れないけど、ちーくんの事が大好きなのはちっとも変わらないから、憶えててあげてね。」
「うん。」
長男の大好きなアイアンマンで誤魔化したみたいな気もするけれど、
もうこんな会話が出来るようになったのだな、という感慨と、こうした時にどう説明するか、というこちらの準備が全く出来ていないのに気付いて少し焦る。
こうした時に避けたりせず、子に解る言葉で死についてもきちんと話しておきたいのだけれど、どんな風に言えば良いだろう。
ブランコに揺られながら、四歳なりに何か祖母を思い起こす事があったのか、もう随分顔を見ないな、どうしてかな、とでも思ったのだろうか。
本当に抱かれた記憶があるのか、母が生まれたばかりの長男を抱いている写真を見て、僕が以前にそう話して聞かせたのを憶えているのか。