慣らし期間中で非常に短時間という事もあってか、
保育園に通い始めた子が驚くほどに楽しげで、
母親の姿が見えなくなった途端に酷く泣き出すのじゃないかと心配していたのが
気抜けしてしまうほどで、迎えに行ってもまだ帰りたくなさそうにするらしい。


通い始めて二日目で、新しいお友達に早速御挨拶(頭突き)をし、
額に小さく切った冷却ジェルシートを貼ってもらって戻って来た。
この御挨拶頭突きは僕も奧さんも何度かされたけど、相当に痛い。
本人は親愛の情を示してでもいるつもりか、挨拶の気でいるらしい。
鼻っ柱や頬骨にガツンガツンとやられてあんまり痛かったので、
「駄目!」と叱ったら、目に一杯涙を溜めて酷く傷ついた顔をして、
挨拶をしてやったのに何故こんな理不尽な目に遭うのか全く解らない、といった様子である。
本当に何度止めても、にこにこと嬉しげに頭突きを繰り返すので、
こちらはこちらでよけるのが上手くなってきた。
親である私たちはそれでいいが、園で他の子にしたらどうしよう、
という不安が現実のものとなってしまった。
何でこの子は誰に教わりもしないのに、こんなに頭突きばかりするんだろう…
と首を捻っていたら、歳が十離れている兄によると、僕にも全く同じ癖があったそうだ。
的確に急所を狙ってくるので、出来るだけ腕を伸ばし、
頭突きが届かないようにして抱かねばならず、
子守をさせられる羽目になると随分酷い目に遭ったとのこと。
そう言われてみれば、兄が僕を抱いて写っている写真に、
髪を逆立て口をへの字に引き結んでカメラを睨み付ける僕を、
腕を精一杯伸ばして抱いた兄が痛そうに片目を瞑っているのがあったのを思い出した。
自分では全く憶えていなかったので、こんな妙な癖まで遺伝してしまうものなのか、
と驚くと同時に、突然始まった頭突き癖の件、腑に落ちた感じもする。


しかし不幸にして僕に似てしまったのなら、
それを僕が叱りつけるというのも何だか気が引ける。
彼にとっては随分と理不尽なことだろう。