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非常扉

日々 うろ話し

段々に冷えてきた所為か、またもや腰を痛めてしまった。

普段からあれこれ工夫もして気をつけている筈なのに。

前回の時程ではなく、時間を掛けさえすれば何とか自分で立ち上がれるから、まだマシだと思う事にする。

とは言え子供の送り迎えも満足に出来ない。

それで新しい職に就いたばかりの妻に無理を言って、少し早引けしてもらっている。

まだ充分に馴染んでいない職場で肩身の狭い思いをするだろうから申し訳ないのだけれど、どうにも他に打つ手がない。

寝たきりでいると回復が遅れたり予後が悪いというから、無理のない範囲で時々そろりそろりと起き出して、出来る限り普段の日常生活に近い動作をしてみている。

しかし矢張り色々と満足にはこなせない。

やるせなくパソコンの前に座ってみたりして、珍しく更新でもしてみようかという気にもなる。

 

腰を痛めてしまった日の出来事。

何となく嫌な予感はあって、ずきずきと痛み始めていたのを気に掛けながらサポーターで締め上げて自転車に乗り、子供達を迎えに行く。

慎重な動作を心掛けつつ帰宅し、マンションのエレベーターに乗り込む。

子供達は帰り着く頃にはいつもくたくたに遊び疲れ、腹ぺこだから、家に入ったらぐずり出す前にテレビを点け、気を紛らわせながら夕飯の支度をする。

色々と手早くする必用があるので、エレベーターに乗り込むとあれやこれやと手順など考えつつ鍵を取り出して、扉が開くと同時に足早に玄関に向かうのが常だ。

その日も子供達を先に降ろすと、自分は先を急いで玄関の鍵を開け、扉を支えて子供達を中へ招き入れようとした。

長男は僕のすぐ後ろで玄関が開くのを待ち構えていたが、一番先に降ろした筈の次男が居ない。

あれ、と思ってエレベーターの方を見ると、僕からは死角になって見えない非常扉のある廊下の先を向いて立ち止まったまま、何かを注視している。

一体何をしているんだろう、と見ていたら、ゆっくりと手を上げて何かを指差し、そのまま笑顔になって、「やあ」と挨拶でもするようにそちらへ手を振り出した。

エレベーターを降りた時には非常口のある方の廊下には誰も居なかったし、他の家の扉も開いてはいなかった。

静まり返って薄暗かった廊下の闇が、ふっ と一層深くなるような、何だか気味の悪い感じがして、慌てて「どうしたの、早くおいで。」と声を掛けながら近付き、手を引いて家に入る。

非常扉の前は、矢張り暗く冷え冷えとして、二世帯ある家の扉はひっそりと閉じられたままだった。

そちらに何か子の興味の引くものでもあれば腑に落ちもするが、あれは確かに、人に向けられた笑顔だった。

誰かに微笑みかけられた時の、お愛想を言って貰ったりあやして貰ったりした時の反応だった。

そして次男はそんな時でも、初対面の人に笑い返す事は、滅多にない。

親が少しバツの悪い思いをするくらい、口をへの字にして訝しげに見つめ返しはするが。

 

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