読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる


友人と古着屋の中で上着を物色している。
突然何かを喚き散らしながら店に飛び込んで来た女が、こちらへ向かって来る。
何を言っているのかさっぱり判らなかったが、
摑み掛かって来るので、仕方なく店の外へ押し出す。
女は捨て台詞を吐き捨てて去ったが、その言葉がどうも人の話す言葉ではなかった。
金切り声が途中から獣の叫ぶような声になり、口をぱくぱくさせて泡を吹き、
目はぐりぐりと回って、しまいには白くなった。
どうもこのままでは済むまい、という気がする。


友人を店内に残し、店の外に出されているワゴンの中からシャンブレーのシャツを手に取って品定めしていると、
先程の女が寄こしたに違いない、これも様子のおかしな大男が、
走っているわけでもないのに異様な速さで、俯いたまま僕のすぐ横を通り過ぎ、
店内に入って行った。
生臭い風が巻き起こってぞっとする。
先程の女といいこの男といい、どうも人とは思われぬ。
友人が人違いで僕の代わりに何かされるのでは、と心配になって、
慌ててシャツを手に持ったまま店内に駆け込んだ。
シャンブレーの生地を染め上げるのにも使われている藍は、
魔除けにもなると何処かで聞いた事がある。
頭からシャツを被せて叩きのめしてしまえばいいと考えて、
闘牛士の様にハンガーに掛かったままのシャツを掲げ、
店の中に躍り込んだら、驚いた顔の友人とぶつかりそうになった。
たった今、これこれこういう風体の男が入って来なかったかと訊ねると、
友人は誰も入って来ていないと言う。
おかしいな、確かに入るのを見たのだけど、と話しながら、
矢張り人ではなかったのだ、と思う。


その後は何事もなかった様に店主と話したり上着を試着したりしていた。
気に入った上着を見付けたが、値段が折り合わなくて買うのを諦めた様に思う。
革ジャンの型紙をアレンジして作られたという厚手の布製ジャンパーだった。
頑丈そうな茶色い生地で、リブの部分だけがアーミーグリーンだった。
元になったジャケットの襟にはボアが使われているが、
布製に置き換えた物は襟なしにアレンジされている、と店主が説明してくれた。