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四月の中頃に大したことのない風邪を引いて、
大したこともないのに臥せっているのは癪だと思いながら、
それでも早く治してしまいたくて大人しくしていた甲斐もあって、
風邪はすぐに良くなったのだけど、
久し振りに起き上がって近所のスーパーまで買い出しに行く途中で、
これまでに経験したことのないような脚の重さや動悸、息切れに襲われ、
家に着いてから暫く倒れ込んでしまった。
動くのがまだ早過ぎたのかしらと思って、ゴールデンウィークの間も
大人しく養生していたのだけれど、体調は一向に良くならない。
そればかりか、大して身体を動かしてもいないのに
時々激しい動悸や息切れが起こるようになってしまった。
どうにも手に負えないので、兄が以前にお世話になった心臓専門の医院で検査を受けることにした。

普段余程の事がない限り病院に寄りつきもしないので、
これまで血圧を測ったことも数えるほどしかなく、
最高血圧146 最低血圧100 心拍110 の結果に驚く。
安静時でこれだから、動いて息が上がるのは至極当然かも知れない。
病院でホルター心電図を取る為の計器を装着してもらって家に帰り、24時間分のデータを提出した。
分析結果が出るまでに一週間掛かるとのことで、今はその結果を待っているのだけれど、
兄が以前に心臓発作で倒れた時と症状がよく似ている為に、母が酷く心配をする。
詳しい話はしていないし、話半分に簡単な説明をして、
顔を合わせればすっかり平気そうにしてはいるのだけれど、
体調の事で母親を騙す、というのは、
嘘の中でも最も高等な技術が必要とされる部類なのかも知れない。
あまり巧く騙せてはいない様だ。

苦しい時にそれを顔に出さないというのは、喘息の発作の時に
息が上がってしまっているのを人に悟られたくなくて、
随分と苦労して身に着けた技なので、少しばかり自信があったのだけれど。


体調の悪化に反して気持ちの方はどんどん凪いで行き、
自分の激しい脈動を煩く感じることはあっても、
話に聞く様な、切迫した恐怖感や焦りという様な気持ちは全く湧いてこない。
具合が悪いと言って家で臥せっていられるのだから、
随分幸せな方だと思うし、合間合間で家族と何でもない話をしたり、
映画を観たりしてのんびりと検査結果を待つ。


もし心臓に何か異常があるのであれば、自分としては少し意外な感じがする。
毛が生えているどころか棘が生えているのではないかとさえ思っていたし、
毒々しい緑色で血管は紫色、腐臭を放っても脈動を止めない、といったイメージを持っていたので、
自分の心臓も人並みに労ってやらねばならないのなら、
これまでとは少し考えを改めねばならない。


毎日欠かさなかった珈琲が飲めないのが少し残念。
煙草も勿論吸えなくなったが、そちらの方は不思議と気にならない。
どんな結果になるにせよ、もう何事もなくこれまで通り、という訳には行かないのだろう。