夢の中で、僕は死んだ猫の遺骸を抱いて彷徨っていた。
長毛で白く大きな猫の遺骸は、手脚を伸ばしたまますっかり固くなっていて、
僕はそれを急いで、冷たくて清潔な水の中に沈めてやらねばならない。
そうしておけば猫の遺骸はいつまでも腐り出さず、
もしかしたら、もう一度ゆっくりと息を吹き返すかも知れなかった。
その猫は命を幾つか持っていたが、その命には限りがあり、
息を吹き返す事が出来るのは三度なのか四度なのか、或いは七度なのか、
そしてこの死がこの猫にとって何度目のものであるのか、僕は知る事が出来ない。
只、息を吹き返すのには長い時間が掛かる事だけは解っていた。
だから僕はこの遺骸を手放す事は出来ない。
はっきりと見極めがつくまでは。
この死がこの猫にとって本当に最後のものであるなら、
猫の死骸はもうとっくに腐り果ててもよい頃だ。
硬直したまま置物の様になってしまった猫を抱いて、
僕は猫を静かに見守ってやれる場所を探し歩いた。


朽ち果てた廃墟の中で、その場所を漸く見付けた。
うち捨てられた水槽に水を張り、猫を沈めてじっと待った。
いつまでも明けない夜の冷気に曝され、水槽はすぐに凍り始めた。


他の人に見付かってしまったら、何と言い訳をしよう。
こんな廃墟で、猫の遺骸を水槽に沈め、
生き返るのをじっと待っているだなんて、
きっと正気ではないと思われるに違いない。
どう説明したところで解っては貰えまい。
頭がおかしいと思われるのは仕方がないが、
猫をどうにかされては困る。
さっさと焼かれたり埋められたりしては、今度こそ本当に死んでしまう。
それが不安で、どうしよう、どうしようと思っているうちに目が覚めた。