一週間、ニューヨークに滞在した。
と言っても宿泊したのはブルックリンで、
二日間はホテルに、残りの五日間は知人宅にお世話になった。
前回渡米したのはもう随分と昔の事で、
その頃とはすっかり様相が違うと聞いていたけれど、
空港からブルックリンへ向かうバスや地下鉄は
どことなく心許なく感じ、特にバスから地下鉄への乗り換えは
降りるべき停留所がよく判らなかった事や、
大きなスーツケースを抱えた観光客など
他には一人も見当たらなかったから、
ちゃんと目的地に着くかどうか、
途中でトラブルに遭わないだろうかと不安になる。


ブルックリンへは、前に一度だけ、友人の案内で
量り売りの安い古着屋へ連れて行ってもらった事がある。
うだるような暑い日で、倉庫のような場所で
古着の放り込まれた大きなカートから
軽くてまだ着られそうな服を漁るのに疲れ、
一人で通りに出て、道端にしゃがみ込んで煙草に火を点けた。
すぐに黒いセダンがゆっくりと近付いて来て、目の前で停まった。
ウィンドウも真っ黒なシートで覆われている。
ラップだか何だか、車の中から喚き立てる様な大きな音が聞こえた。
ゆっくりと窓硝子が下りて、頭にバンダナを巻いた男達が
こちらを見下ろしてニヤニヤと笑っているのが見えた。
窓から小型の自動小銃を出して、僕に見える様にした。
妙に短い銃身が、日差しを受けて鈍い銀色に光っている。
銃口がこちらを向いても、何故だかその時は
恐い、という感覚が全く湧かなかった。
暑さと、ニヤニヤした顔がどうにも不快で我慢ならず、
睨み返して煙草の煙を吐き出した。
どの顔もまだニキビ面の残る、
十代の少年達ではなかったかと思う。
車は来た時と同じ様に、ゆっくりと走り去った。
新しく手に入れた銃を見せて自慢したかっただけなのか、
自分達の縄張りに入って来た見慣れない東洋人を威嚇してみただけなのか、
多分からかっただけなのだろうけれど、
初めて訪れたブルックリンを印象づけるには、十分な出来事だった。



確かに治安はずっと良くなったのだと思う。
宿泊したホテルの辺りでは東洋人は殆ど見掛けなかったけれど、
建ったばかりだというホテルの部屋は清潔で気持ちが良く、
(裏が廃墟の様な建物で窓からの眺めは
お世辞にも良いとは言えないけれど)
日が落ちてから通りを歩いても特に不安は感じなかったし、
知人宅の周りは閑静な住宅街で、
アパートメントも広く、素敵なお家だった。


バスの乗り降りに戸惑ったり、
地下鉄の路線を乗り間違ったりするのは相変わらずで、
おまけに僕は酷い方向音痴だから、ナビは殆ど人任せにして
口を挟まずに指示された方へ突き進む事にした。
それで良かった、と思う。
一人だと、多少間違っても何とかなるだろうと高を括ってしまいがちで、
人が一緒だと今度は色々と心配し過ぎる傾向がある。
ナビに全く向いていない。