下血があったとのこと。
知覚過敏から痙攣発作が起こるようになった。
人の耳には届かない音域の、微かな音に反応して痙攣が起きる。
静かな呼びかけや足音で発作を誘発してしまうおそれはないとのこと。
意識レベルははっきりしていて、呼びかけに応じてちゃんとこちらを見る。
瞳孔が開いたままなので一見虚ろに見えるが、
よく見れば瞳の奥に元のままのチィさんが覗いている。
僕の顔を見て、声は出さず、しきりに鳴く。
その度に慎重に酸素室の扉を開け、小さな頭や頬を撫でた。
頬や顎の下に指が触れると、いつもそうしていたように首を伸ばし、
目を細めて見せる。

落ち着いた静かな顔をしている。
怯えたり苦しんではいない。
いや、苦しくない筈はないのだけれど。


とうとう下血や痙攣発作を起こしたと聞いて、
どうにもやり場のない気持ちで面会に向かったのだけれど、
チィさんの静かな表情を見ていたら
少しずつ気持ちが凪いでいった。


医者にもう一度訊ねた。
もう酷く苦しむようなことはないだろうとの返事。
おかしな言い方だけれど、バランスよく、上手に弱っている。
終わりに向けて穏やかに進んでいく。
チィさんなら、きっと最期も上手くやってのけるだろう。


小さな頭を撫でながら、今もどれほど愛しいと思っているか、
ちゃんと知っていてくれているだろうか。
苦しませない為に専門的な知識と器具、
整った環境が絶対に不可欠で、
結局家に連れて帰ってやれなかったこと、
最期の瞬間に側に居てやれないかも知れないことだけが心残りだ。