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もうあまり見えていないかも知れないと言われた目で
チィさんは僕と妻の顔を交互に見る。
顔を近付けて名を呼べば、出なくなった声を出そうとして
喉から「ぐー、ぐー」と音を出して応える。
まだちゃんと意識がある。
もうがんばらなくてもいいんだよ、と思う。
どうか楽にしていて欲しい。


最期がどのような形で訪れるのかを病院で訊ねた。
出来るだけ苦しまないよう考えて治療を進めているとの返事。
無理な延命処置ではなく、苦痛を軽減しながら
出来るだけ自然な形で体力を落とし、眠るように行く為に。
どうか本当にそうなりますように。


僕はあと二日でまた一つ歳をとる。
何もいらないし一度に十年くらい歳をとってもかわまない。
唯々、楽にしてやりたい。


十四日、午前零時頃に吐血したとの事。
午後三時からの面会時間をじりじりしながら待つ。
明日からまた一週間面会に行くことの出来ない妻は
もしかしたらこれが最期の面会になるかも知れない。


チィさんはちゃんと待っていてくれた。
しっかりと二人の顔を見た。
元気な時ふざけてよくそうしていたように、
チィさんの顔に ふー と息を吹きかけると、
目をしばたかせてきょとんとした顔をする。
どんなに痩せ衰えても、愛しくて大切で
かけがえがない。


辛い。
チィさんの居ない家の中を想う。
この先の暮らしを想う。
周りの全てが色を無くしていくように感じる。


チィさんの仕草、やわらかさ、暖かさを想う。
失われた色を少しずつ取り戻す。
大丈夫。
消えないものもちゃんとあるのだ、と思い直す。