読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる


見ていて不安になるくらい膨らんでいた腹部の張りが少し治まって、
痩せているのが酷く目立つ様になった。
長毛だから判りづらいが、撫でると背骨や腰骨がごつごつと掌に当たる。
お腹の張りが治まって少しは楽になるかと思いきや、
前よりも呼吸が荒くなって、息をする度にハァハァと頭を揺らして苦しそうにしている。
抗生剤の影響で善玉菌が死滅してしまい、
それが腹部の張りに繋がったと思われるので、抗生剤の投与は中止した。
病院で輸液をした際に、活性炭剤の投与量を増やす事で
僅かでも呼吸を楽にしてやれないか訊ねたが、
今の状態ではもう効果は期待出来ないとの返事。
もう無理な事はせず、出来るだけ安静に、との事。


この医師が、治療を諦めようとする患者の飼い主を叱りつけているのを
何度か目にした。
「出来る事を最期の一瞬まで、力一杯してやろう」そう言うのを聞いた。
その彼が、もうそっとしておいてやろうと言う。
僕も怒鳴りつけてくれよ、と思う。
まだやれる事があるのに、何故お前はしようとしないのか、と
叱ってくれたらどんなにいいか。


自発的に水を飲まない場合でも、
シュリンジで無理に飲ませたりしない方が良いと言う。
しかし、このまま飲まず喰わずでは数日も持つまいと思う。
何もせずに只見ている事に耐えかねて、
スポイトで少しずつ口を湿らせる。
最初少し顔を背けるような様子を見せても、
ごく少量づつ口の端に垂らすようにしてやると
「仕方ない、飲んでやるか」とでもいう様に舌を出して舐め摂る。
本当に飲みたくない時は、しっかりと口を閉じて一切受け付けようとしない。




最初からこちらの思惑通りにどうこう出来る相手ではなかった。
チィさんが選び、チィさんの意志のままにこちらが動かされている。
このところは、「病院の時間だよ−」と声を掛け、
キャリーバッグの側まで連れて行くと、
静かに自分からバッグに入って行き、僕が蓋を閉じるのを待っている。
そんな事がもう三度ほど続いた。


彼女は常に自分で選択し、その意志をはっきりと伝える能力を有している。
自分のしている事が烏滸がましいのではないかとか
本当にこれでいいのかだのと懊悩煩悶している事自体が、
もしかしたら大きな勘違いなのかも知れない。