仕事が済み次第兄が病院へ連れて行ってくれる事になっていたが、
息苦しそうなのを見かねてタクシーで病院へ向かった。
レントゲンの結果、肺に影が見付かり、炎症を起こしているか、
ここ数ヶ月で急速に進行した腫瘍の可能性があると指摘された。
呼吸が苦しいのはその所為であるらしい。
大型の酸素吸入器をリースして自宅に設置することになるかも知れない。
その場合はケージを用意しなければならない。
月曜まで経過を見て決めようということになったが、
苦しそうな息遣いを見ていると一刻も早く楽にさせてやりたい。
興奮させると息遣いが荒くなってしまって危険な為、投薬と強制給餌は一時中止。
水だけは何とか少しでも飲んで欲しいが…


病院では久々にとても強い口調で叱られている患者さんの家族がいて、
病状はチィさんに似たものの様だった。
老衰から命を救うことは出来ないが、
最後迄症状を緩和する為の通院は続けるべきと主張する医師と、
そうする事で、これ以上苦しみを長引かせたくないのだと言う家族と、
どちらの言葉も胸に突き刺さる様に切実で、
僕は待合室で泣き出さないように堪えるのに必死だった。
特に医師の
「あなたは自分がもう苦しむのを見ていたくないだけだ。
だから早く終わりにしようとしている。
そんな風に見放さないで最後まで治療してやってくれ」
という言葉が耳に痛かった。
僕もそうだ。苦しむチィさんを見ていたくない。


最後迄目を背けないでいよう。
出来る限りのことをしよう。
逃げないでいよう。


行きは黙りこくっていたタクシー運転手が、
帰り道では饒舌で、少しも悪意はないのだろうけど
僕の虫の居所が悪かったらすぐにも嚙み付きそうな事を言った。
不快だったが何故だか腹は立たなかった。
色んな事情を抱えた人なのだろうと思った。
診察は予定よりも長引いたが、彼はメーターを倒して待っていてくれた。
帰りもお願いします、と言ったら何度も自分で良いのかと訊ねた。
降りる時にも何度も礼を言われた。
彼は「私は田舎育ちで、つい飼った動物を虐めてしまうんですよ、
だから私は動物を飼っちゃいけないんです。」
そう言った。




この数日間、ツイッターやミクシ等で、
本当に沢山の人達がチィさんを応援してくれている。
チィさんの名を連呼して下さった方、
メッセージを送って励まして下さった方、
チィさんを想って泣いて下さった方、
それが今、どれほど僕や妻の心の支えになっているか知れない。
全ての方に心から感謝したい。
驚くべきがんばりを見せてくれているチィさんにも。