夕方から実家近くの料理屋に集まり
母ニチコさんの誕生日を祝う。


用意しておいたハロッズのクリスマスベアーを贈った。
大きくて場所を取るからどうかとも思ったが、
どことなく父ユキオさんに風貌が似ている気がして、
結局これに決めてしまった。
売り場に幾つか同じ物が並んでいたのだが、
選んだものだけがユキオさんに似ている。
同じ作りの筈なのに、何処がどうとはっきりとは言えないのだけれど、
少し不機嫌そうな、気難しそうな、
それでいて少し寂しそうに見えるそのクマのぬいぐるみは、
売り場の棚で他の仲間たちから離れてぽつんとしていて、
どうしても気になったのだ。


ニチコさんは必要なものは何でも全て持っているし、
大好きなマフラーや筆記具の類は
それこそ店でも始められそうなくらいに買い揃えてあり、
そもそも“選んで、買う”という行為そのものを
楽しんでいる様なところがあるから
今更好みに合うかどうかよく判らないものを贈られるよりは、
いっそ少しも実用的でない、自分で買うのは少し躊躇する様な物の方が良いと考えたのだ。


食事の間はユキオさんも始終御機嫌で、
ビールを少し飲んで酔ったのか、
抑留時代に覚えた露西亜語の唄を唄ったり、
店員に露西亜語で話しかけて困惑させたりしていた。
肝心のニチコさんは横のユキオさんに気を配ったりで
ゆったりと食事を楽しめたとは言い難いが、
それでもユキオさんが御機嫌なのはきっと嬉しい事には違いない。


祝いの席だったのに、ニチコさんから全員にお小遣いが配られた。
僕にも、仕事で出席出来なかった奥さんにも。
日頃から、つくづく分け与えてばかりの人だと思う。
当たり前の様に受け取るばかりではないと、
そういう気持ちはあるのだけれど、
こちらがしてあげられる事は、あまりに僅かだ。


お返しのお返しのお返し、という様な事になりがちだけれど、
してあげられる事を考えねば、と思う。