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蟲の夢を見た。
あのおぞましい黒い蟲にそっくりな
ぬらぬらと柔らかい質感を持ち、
身体に幾つかの節を持った大きな蟲が
勢いよくのたうちまわりながら部屋に入って来る夢だった。
その断末魔の暴れぶりが気味悪くて
まだ夜も明けきらぬうちにすっかり目が覚めてしまった。
暫くの間パソコンの前に座って気を落ち着け、
気を取り直してもう一度眠ったら、今度は幽霊の夢を見た。


大学の構内の様な場所に居残って作業をしている。
すっかり遅くなってしまった。
灯りを消して戸締まりを確認しながら帰る支度を始める。
よせばいいのに灯りを消しながら校舎の奥へ行き、
真っ暗な廊下を歩いて戻る。
幾つかのドアを抜け、もうすぐ校舎を出るという辺りで、
つい先程迄作業をしていた部屋の扉が
目の前でゆっくりと開いた。
もう誰も残っていなかった筈なのに、と驚いて見ていると
真っ白な指がドアに掛かるのが見え、
ついで白い着物の袂と日本髪を結った頭が、
ドアを潜る様にして現れた。
天井に支えそうなくらい、見上げるほどに大きな女だった。
女は無表情にこちらを見下ろすと、
気の所為だったかと思うほど微かに頭を下げ、
会釈の様な仕草を見せてドアを潜り抜け、廊下へと出て来た。
慣れた所作で袂を押さえ、小股に足早に移動して、
ありもしない床板の板目に合わせる様にして直角に曲がり、
別なドアから姿を消した。


真っ白な着物の裾にちらちらと赤い襦袢が覗いていた。
白ペンキの剥げ掛かった鉄製の扉が閉じられてしまうと、
今見たものが果たして現実だったのか疑わしくなるほど
一瞬の出来事で、しかし僕の脚は竦んでいて身体は総毛立っていた。
立ち竦む僕の横を擦り抜ける時、
女が横目で一瞥をくれて行った気がする。
全く表情のない、冷たく透き通る様な目つきだった。


別な校舎にある詰め所の様な場所に、
別の科の職員がまだ少し残っていたので
今見た事の一部始終を語り聞かせると、
そのうちの数名が「その女はこんな様子ではなかったか」と
今出会った女の様子をぴたりと言い当てた。
他の職員もその着物の女と出会ったという。
出会っていない職員の一人がふざけて
こんなだったか?と腕を前に突き出し、背伸びして見せる。
棒切れに布を掛けた様な女の薄い身体を思い出して
また総毛立つ様な心持ちになった。


何か芸事を嗜む者の様な所作で
身のこなしが見事であるという事と、
いつも前にのめる様な急ぎ足であるという事が妙に気に掛かる。
誰も特に怖ろしげな事をされたという訳でもないが、
矢張り暗くなってから人外の者に出会うというのは
気味の良いものではない。
口々にそう言い合った。






例によって起きている時に見たもの聞いたものの影響を考えてみるが、
繋がりが全く読み取れない。
自分の脳が何処からこういう情報を取り出して来て見せるのか
非常に興味があるのだけれど、
自己流の夢分析はまだ巧く行った試しがない。
灯りを消しながら奥へ向かうのは、
以前勤めていた場所でずっとそうしていたから、
その癖が夢に現れたのだろう。