「あと十年生きたらいいのに」
猫を撫でながら何となく口にした自分のその言葉で、
もうそんなに長い時間は望めないのだという事に
改めて気付かされ、愕然とする。


あと十年もあればチィさんはギネスの長寿猫記録を塗り替えて
本物の化け猫になれるだろう。


残りの時間を数えたりするのはよそう。
何年一緒に暮らしたかなんて、これまで通り忘れていよう。
正確に知る必要はない。


横で眠るチィさんを起こさない様に静かに撫でる。
掌に伝わって来る暖かさはまぎれもなく本物で、
これ以上確かなものなんて他にあるだろうかと思う。
これがなくなるなんてどうしても信じられない。
今はこれだけで充分だ。