午後から国立西洋美術館へ。
ヴィルヘルム・ハンマースホイ展を観る。
自分や家族の暮らす身近な空間を描いた絵は
どれも静寂という言葉が相応しいものばかりで、
前に立つ者を絵の中の世界に取り込んでしまう様な
不思議な存在感を持っているが、二つの世界はけして交わる事はなく、
描かれている人物像はその多くが鑑賞者に背を向け、
まるで幽霊か何かの様にひっそりと佇んでいる。
しかし展示室を進むうち、幽霊として絵の中に迷い込んでいるのは
こちらの方なのではないかという事に気付かされる。
古びた床の軋む音や微かな衣擦れの音、
机の上に静かに置かれる陶器の音などが
ごく僅かに伝わって来る。
鑑賞者はその気配を、幽霊として部屋の隅に立ちながら、
或は同じテーブルについて、静かに共有する。


暗い部屋に窓から差し込む日差しは部屋全体を明るくはせず、
描かれた人物はすぐ傍にある暖かな日差しに目を向けない。
いくら待ってもけしてこちらを振り向く事はない、
と思わせる背中ばかりが描かれていた。
音もなく椅子から立ち上がって隣の部屋に続く扉へ消えて行くのは
容易に想像が出来ても、こちらを振り向いて視線を合わせる事は
どうしても想い描く事が出来ない。同じ空間に在りながら、静かな、
そして絶対的な拒絶を受けているかの様な閉塞感、孤独を感じる。
しかしそれはけして不快なものでない。寧ろ魅力的でさえある。
とても興味深く面白い体験をした。
webや画集でなく、直に絵の前に立つ事が出来て良かった。


ハンマースホイ邸や彼が暮らしたストランゲーゼ30番地を
彼の描いた絵を構成する事で3D視覚化して見せるコンテンツがあり、
それがとてもよく出来ていて面白かった。
http://www.shizukanaheya.com/room/index_flash.html