夜鷹の★

遠方に住まう方が上京し、食事のお誘いを下さったので
ありがたい事と思いすっかり参じる気になっていたのに、
前日の夜半辺りからくしゃみと鼻水が止まらない。
明け方に薬を飲んで漸く眠り、起きる頃には薬が切れて
またティッシュが手放せなくなってしまった。
それでも薬を飲んで誤摩化して、何とか行くつもりでいたが、
寝汗をシャワーで流し、髭を剃る時に鏡の前で喉の奥を見てみたら、
白く丸い膨らみが喉の奥に貼付いた様になって酷く腫れている。
それを見て“ああ、これは駄目だ”と観念した。
何とか誤摩化してきたが、これはまぎれもなく風邪だろう。
近年喉が腫れ出すと治癒するまでにずるずると長引く事が多く、
あまり質が宜しくない。
それだけ体力が落ちているという事だろうか。
これから無理をしなければならないのだから、
無理が利かなくては困るのだ。


折角のお誘いを無下にする様で申し訳なく、
御一緒させて頂く機会を逃したのは如何にも残念である。
さっさと治してしまいたい。


喉の奥が痛むので例によって熱いものや硬いものをごくりと乱暴に飲み込んでは
沁みたり喉の傷んだ部分を刮げ落として行く様な痛みを味わっている。
こうなるといつも、宮沢賢治の「夜鷹の星」という話を思い出す。
夜鷹が一匹の甲虫を飲み込んで、その甲虫が喉の奥でもがくのを感じて
泣き出すところを思い浮かべてしまう。
初めてこの条を読んだ時、喉の奥がむずむすする様な気がした。
飲む方も飲まれる方も辛いだろうな、とそう思った。
本を読み終えてから物語の夜鷹を思い浮かべて絵に描いたが、
後になって調べてみたらその姿は実際の夜鷹とは似ても似つかないものだった。