青梅の先にある櫛かんざし美術館へ。
この日は仕上がった銀製の渦巻き簪をUさんにお渡しする日でもあり、
予てより簪美術館へも御一緒する約束をとりつけていた。
予定通り着物姿で現れたUさんとMさんと電車の中で落ち合い、
沢井駅へと向かう。
以前にUさんの着物姿を見て以来
すっかり着物の魅力に魅せられてしまった風なMさんも、
Uさんの懇切丁寧な御指導の賜物か
普段着慣れていないぎこちなさなど少しも感じさせない見事な着こなしで、
二人並んで歩く後ろ姿など、颯爽としていてなかなか堂に入ったものだった。


沢井駅の無人改札を出ると、
そこには予想していなかった様な長閑で心安らぐ景色が広がっており、
忽ちちょっとした小旅行にでもやって来た様な気分になり、心躍る。
まずは腹拵えと、酒造元の澤乃井が経営する料理屋の一つ、
豆らくにて美味しい豆腐料理と冷酒を一杯頂いて昼間からすっかり御機嫌になる。

着いたのはまだ昼過ぎだったが、120食限定のメニューは僕たちで丁度売り切れ、
僕たちがその日最後の客となった。大変な繁盛ぶりだ。
正直なところ田舎にある少し寂れて人気のない場所を思い描いていたものだから、
客の入りも景色の良さも美術館の充実ぶりも、
何もかもが嬉しい予想の裏切り様で、
何と言っても着物美人に挟まれて両手に花の一日だったのだから、
自然に鼻の下もこれ以上ないというほど伸び切るというものだ。


美術館に収蔵されている簪も見事な細工の物ばかりで、
これが個人所蔵のコレクションだったというのだから、
気の遠くなる様な大枚を注ぎ込んで集めたに違いないと溜め息が出る。
僕にはついぞ縁がないが、あるところにはあるものらしい。


酒造所の美味しい甘酒を頂いて歩き疲れた脚を休め、帰路についた。
酒まんじゅうは売り切れていて食べられなかったから、
次回に持ち越し。
もう少しすれば紅葉の美しい景色が見られるだろう。

こんな景色が日帰りで見られるのだから、
また行かない手はない。


Uさんと別れて吉祥寺に寄り道をし、
カフェ横尾チコリアイスカフェオレを飲んだ。
香ばしくて面白い味がする。
カフェ好きの友人たちが喜びそうなお店。
いつか機会があれば案内したい。