明け方になってチィさんが布団に潜り込んで来た。
ああ、何時の間にかすっかり秋になってたんだな、と思う。
今日は薄曇りで少し肌寒いくらいだ。
酷く喉が渇いていたし、手を伸ばせば届く処に煙草の箱が見えたけれど、
掌やお腹にチィさんの暖かさや満足げに喉を鳴らすのが心地好く響いてきて、
何度このぬくもりに救われてきた事だろうと思うと
無下に押し退けて布団を剥ぐのも憚られる。


もういいよ、と言われるまで
ずっと背中に掌を乗せていよう。
それは当然守られるべき契約の様なものだ。
僕は君が外での自由な暮らしをどんなに愛していたか、
よく知っているから。
僕がどんなに尽くしても値しないほどの高い代償を払って
君はここに居るのだから。


時々、どんな気持ちで窓の外を眺めているのだろうと考える。
飢えや寒さが命を縮めたとしても、車や人に命を奪われたとしても、
もし自分でどちらか選べるのだとしたら
やっぱり君は迷わず自由な暮らしを選んだだろう。
今でもはっきりと思い出せる。
雪の上を静かに歩いて来る姿は本当に美しかった。
草の中に身を伏せて鳥を見ているのは本当に楽しそうだった。


奪った分だけ与えたいと思っても、
代わりになるものなどある筈がない。
ガラスを隔てて窓の外を見る時、君はどんな気持ちでいるんだろう。



一方的に交わされたこの理不尽な契約の代償として
僕は出来得る限りの事をする。
自由を奪う事への対価は、うんと高いものであるべきだ。